これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

* こちらに掲載中のものは、送信後に修正等の必要が生じた場合は修正等を加えて掲載しています。あらかじめご了承ください。
* 丸ごと全文の転載はご遠慮ください。引用される場合は水戸芸術館公式サイト http://arttowermito.or.jp/ へのリンクをお願いいたします。

お問い合わせは下記よりお願いいたします。
>> お問い合わせフォーム


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date:  Sun, 24 Dec 2000 16:48:24 +0900
From:  tamamik@arttowermito.or.jp
Subject:  [atm-info,01103] "Futari no Onna" background
To:  atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id:  <492569BF.002A92AC.00@david.arttowermito.or.jp>
X-Mail-Count: 01103

▼ATM速報2000年12月24日発------------------------------

歴史認識と再評価の試みを経た明確な姿勢の表明、骨太な姿勢にこそ
深く宿る精緻な魂を、ACM劇場新世紀の活動からお伝えいたします。

------------
新年公演では、戦後50年の現代演劇の歴史のなかで、初演以来一度も
再演されていない伝説の作品をとりあげることになりました。
再演されずに何十年もの間作家の引き出しの奥深くにしまわれていた
のには、それぞれに色々な理由があります。
私たちは、すでに何人かの劇作家に直接話を聞き、再演を考えている
作品を読み直し、その優れた文学性と演劇性に驚きました。そして、
それらの作品を再演することが、戦後演劇という大きな時代の
歴史的な意味を問い直し、その演劇的な魅力を多くの観客に
再発見していただける有意義な事業であると確信いたしました。

そこで平成13年の新年公演では、1979年に劇団第七病棟が初演
しました唐十郎の作品『ふたりの女』を再演いたします。
この作品は同劇団がその後上演しました唐十郎の代表作として高い
評価を受けました『秘密の花園』と『ビニールの城』を生み出した
作品であると同時に、唐十郎にとって、初めて二つのキャラクターを
もった女を描いた記念碑的な作品です。
この作品のベースになったテキストは『源氏物語』の葵上と六条の
物語です。舞台は、ひとりの女の記憶を追う男の回想から始まります。
その女の名はアオイ、男の名は光一。そして、もうひとりの女、六条
との出会いの記憶が交錯します。六条の魔性のような魅力にひかれる
光一、彼のなかに別な女の匂いをかぎつけるアオイ。光一はやがて
アオイのなかに六条を、六条のなかにアオイを見るようになる。
そしてアオイの死......。

今回は劇団唐組から稲荷卓央と藤井由紀の客演を得て公演いたします。

------------------------------------
唐十郎(からじゅうろう)プロフィ−ル
1940年、東京に生まれる。明治大学文学部演劇学科卒業。在学中、
学生劇団「実験劇場」に入団する。62年、劇団「青年芸術劇場」に
研究生として入団するが、翌年退団。笹原茂朱、古蛾靖らと劇団
「状況劇場」を旗揚げする。67年、初めて新宿花園神社に紅テントを
出現させ、『腰巻きお仙  義理人情いろはにほへと篇』を上演する。
以後テント公演を中心に活動を続け、韓国、バングラディッシュ、
パレスチナ、ブラジルなどでの海外公演を行なう。
『少女仮面』(69年)で第15回岸田國士戯曲賞を受賞。『海星・河童
少年小説』(78年)で第6回泉鏡花文学賞を受賞。
『佐川君からの手紙』(83年)で第88回芥川賞を受賞する。

------------------
唐十郎インタビュー: 『ふたりの女』について

-- 『ふたりの女』が生まれるまで

唐十郎:『六号室』というラジオドラマをNHKに書いたんです。
『ふたりの女』の二幕の最初から、アオイが自殺しようとする二幕の
真中からちょっと過ぎたところまで。それから二、三年たった
一九七六年頃だと思うんですが、一幕を書き、さらに二幕の後半、
アオイが亡くなった後を書き加えたんです。
僕にとっては、初めてサンドイッチ方法をとった作品ですね。

-- 『六号室』について

唐十郎:二十歳過ぎたばっかりの頃、本が書きたくて「何かいい
テキストがないかなぁ」って探し歩いていたとき、チェ−ホフの
『六号室』という小説を思い出したんです。でも、見つけられなくて、
『退屈な話』だけ読んで、「何とか芝居にできないかなぁ」って
考えたときがあったんです。それから何年かたって、『源氏物語』を
テキストにラジオドラマを書くことになり、原作を読んで六条という
名前を見つけたとたん、「あぁ、六号室だ」っていうことに
なっちゃったんですね。

-- アオイと六条という二人の女について

唐十郎:ふたつのキャラクタ−を一括してとらえたいという衝動が
ありましたね。沼の淵に立つと、ギュッと男の足首をつかんで
「あたしを忘れた?」っていってくるような女と、
わりとのほほんとして上昇志向にのって生きている麗らかな妻とを
ないまぜにしたような。
女の表と裏をぐるぐる展開させてみたかった。
多角形としてのアオイと六条が意識されればいいと思ったんです。

-- 書き方の力点について

唐十郎:『ふたりの女』という作品のなかで書き方の力点を入れた
のは、六条のアパ−トの場面ですね。あそこがいちばん気になる
というか、フラッシュバックしていくんですよね
たしかに六条が喋っているんだけれど、芝居が終わったあと、
もし光一が生きているとすれば、振り返ったときにいちばん記憶に
残る場面でもあるんじゃないか。というのは、六条が喋っている
だけじゃなくて、光一という男のセンサ−がいちばんとらえている
女の風貌というか記憶がその場面だろうという気がするんです。
つまり、六条がどのように生きたかということと同時に、光一が
どのように六条を記憶しているかということですね。

-- 『源氏物語』と三島由紀夫の『葵上』について

唐十郎:『源氏物語』を読んだときに、妻である葵と六条の確執が
どこで高まるかというところで、ちょっとびっくりしたんです。
あの「車争い」はショックでしたね。車という具体物と、車から
転げ落ちるという状況は、彼女たちの間の確執を増幅させることは
あっても解消することはない。それが三島由紀夫の作品にはないん
ですね。彼の作品に出てくるふたりの女の争いは上部構造における
争いなんですよ。下部構造的なものが入ってこない。
そこで、そのところをうまく膨らませてやろうと思って、それが
『ふたりの女』を書いたきっかけですね。六条が出てくる、あの
サ−キット場の駐車場の場面で、アオイの弟の次郎に車を奥へ
やられちゃって、しかも鍵まで投げられちゃった。そこでの六条が
いかに困っているか、その状況を膨らませたいなって思ったんです。

-- 砂について

唐十郎:砂がいまどういう意味をもっているのか、やっぱり興味が
ありますね。初演のときは、舞台いちめんに砂を敷きつめた。
ただ、砂のイメ−ジが変質してきていますね。
大衆消費的なものになっている。

http://www.arttowermito.or.jp/play/futarij.html
水戸芸術館開館10周年記念事業
ACM百人劇場シリ−ズ・10/ACM劇場プロデュ−ス公演
『ふたりの女』
作:唐十郎/演出:松本小四郎

http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html 次回配信をお楽しみに!---