これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

* こちらに掲載中のものは、送信後に修正等の必要が生じた場合は修正等を加えて掲載しています。あらかじめご了承ください。
* 丸ごと全文の転載はご遠慮ください。引用される場合は水戸芸術館公式サイト http://arttowermito.or.jp/ へのリンクをお願いいたします。

お問い合わせは下記よりお願いいたします。
>> お問い合わせフォーム


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date:  Sun, 04 Feb 2001 23:59:15 +0900
From:  Tamami Kojima <tamamik@arttowermito.or.jp>
Subject:  [atm-info,01127] "Futari no Onna" Director's Note
To:  atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id:  <20010204150146.640DC5ED5@mail.asahi-net.or.jp>
X-Mail-Count: 01127

▼水戸芸術館ATM速報2001年2月4日発------------------------

水戸芸術館 開館10周年記念事業 
ACM百人劇場シリーズ・10
ACM劇場プロデュース公演 『ふたりの女』
http://www.arttowermito.or.jp/play/futarij.html
おかげさまで本日は完売の内に公演を終えています。
ディレクタ−ズ・ノートをお届けいたします。

------------------------------------
『ふたりの女』について -- 松本小四郎

唐さんから「『ふたりの女』、やってみない?」といわれたのは、
一昨年のクリスマスの夜だった。久し振りの酒宴の席でのことで
ある。突然の話だったので、私はびっくりして、すぐには返事が
できなかった。それは、唐さんの作品はやはり唐さんが演出する
ほうがいいからである。
唐十郎という劇作家の魅力は二つあると思う。ひとつは、俳優の
肉体を熟知していること。彼の書く戯曲の言葉は、俳優の肉体が
そのなかに自然に棲み込めるような体温と深い叙情性をつねに
秘めている。もうひとつは、ト書きである。ト書きを読むと、
どう演出すればいいのか、いや、どう演出しなければならないの
かがわかるのである。
唐十郎は現代演劇を代表する劇作家であると同時に、優れて感性の
豊かな演出家なのである。

私は、それからほぼ一年間、『ふたりの女』を何度となく読み返し
ながら、どう演出したものかとあれこれと考えた。今回の舞台が
その答えであるとは思っていない。やらなければならないことと、
やりたいことがなんとか舞台にできたのではないかと思っている。

そこで、今回の舞台について一言。『ふたりの女』にはいくつもの
キーワードがある。ひとつは70年代という時代。全共闘運動が
敗北し、そのあとに成田闘争、よど号ハイジャック事件、
三島由紀夫の自決、爆弾闘争、連合赤軍、浅間山荘事件等々が
起きた騒然とした時代であり、オイルショックに端を発した経済の
混乱期が70年代である。その70年代から「アオイ」と「六条」
という名の女が生まれたのである。彼女は時代に深く傷ついた女で
ある。
その彼女が「男」と出会うのである。彼女は一幕の冒頭で、
そのときのことを老人にこう語っている -- 「あの人が近づいて
きたの。警官に追われながらも、あたしに近づくと、これを
あずかってくれって、身分証明書の入ったパスと、それにくくり
つけた鍵をにぎらしたわ。
それから、あたしに砂をかぶせ、またくる、きっと来るって去って
いったの。」
この言葉を聞けば、彼女がどういう精神状態で伊豆の療養所に
いたのかは容易に想像できるだろう。彼女は「あのとき」から、
ずっと「男」を待ちつづけていたのである。そして、療養所の医師、
光一のなかにその「男」を見てしまったのである。その出会い
(再会)は劇的である。
なぜなら、そこにこそ、『源氏物語』にも三島由紀夫の近代能楽集
『葵上』にもない『ふたりの女』の物語があるからだ。

そこで他のキーワードについて。この作品は『源氏物語』と
チェーホフの短編小説『六号室』から着想を得ている。
さらにいえば、能『葵上』と三島由紀夫の近代能楽集『葵上』とも
無関係ではない。「車争い」に敗れた六条御息所が生霊となって
葵上を苦しめるという設定は、『ふたりの女』のアイオと六条との
関係にしっかり投影されている。
しかし、忘れてはならないのは、六条を<時代の女>として描いた
作品は『ふたりの女』をおいてないことだ。六条が終幕で光一に
語って聞かせる言葉に見事にそれが現われている -- 「あなたに
声をかけられながら、ついに応えそこなったあたしの声。もしも、
これが、あの時、あなたの耳に入っていたならば、こんな回り道を
しなくてもすんだのかもしれません。」
これはひとりの女の真情をはるかにこえた言葉である。私はそれを
<時代の真情>と思ったのである。だから、彼女たちは静かに美しく
埋葬されなければならないのだろうが、私はそうしなかった。
それは、彼女たちの真情を背負いながら<いま>という時代を歩き
つづけるしかないからではない。彼女たちの真情が色褪せることなく、
<いま>を鮮やかに映し出してくれているからだ。そこから過去と
未来を見なければならないと思ったのである。

* 参考 (抽出・編集:送信者)
1967年10月10日 空港公団による三里塚杭打ち。
1968年 4月18日 日本初の超高層ビル36階建ての霞ヶ関ビル完成。
1969年 1月19日 東大安田講堂に機動隊出動、封鎖解除。
1969年 5月26日 東名高速道路全面開通。
1970年 3月14日 大阪で日本万国博覧会開幕。
1970年 3月31日 日航機よど号ハイジャック事件。
1970年11月25日 三島由紀夫、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺。
1971年 6月17日 沖縄返還協定調印。
1971年12月24日 新宿派出所前でツリーに見せかけた爆弾爆発。
1972年 2月19日 連合赤軍浅間山荘事件。
1972年 5月30日 日本赤軍テルアビブ空港での小銃乱射事件。
1972年11月 5日 ジャイアントパンダのランランとカンカン初公開。
1973年 2月 5日 渋谷駅コインロッカーで嬰児の死体発見。
1974年 8月30日 丸の内三菱重工ビルで時限爆弾爆発。

http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html 次回配信をお楽しみに!---