これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date:  Fri, 25 May 2001 19:20:13 +0900
From:  tamamik@arttowermito.or.jp
Subject:  [atm-info,01197] Yazawa special "On Alessandrini program -- for dear atm-info	 readers"
To:  atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id:  <49256A57.0038ABC7.00@david.arttowermito.or.jp>
X-Mail-Count: 01197

▼水戸芸術館ATM速報2001年5月25日発---------------------

丹念に読み込んでくださるATM速報読者の皆様なればこそ、さらに
語り合いたい気持ちいっぱいの矢沢孝樹・館音楽部門学芸員よりの、
できたての特別編です。
コンサート後のご意見ご感想もいつもどおりご遠慮なくどうぞ。
mailto:webstaff@arttowermito.or.jp

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皆様、いよいよアレッサンドリーニのオルガン・リサイタルが
近づいてまいりました。間違いなく現在の古楽演奏の最先端にいる
彼自身の活動については、すでにちらしやvivo等でお伝えして
おりますので、ここであらためて言葉を費すまでもないでしょう。
しかし、プログラム解説を書いているうちに、今回のプログラムが
実に巧妙に仕組まれたものであることがわかってきました。
音楽史や音楽修辞学に精通した博識の音楽家アレッサンドリーニ、
さすがという感じです。解説では各曲をとりまくデータについて
書きましたが、ここではATM速報読者のみなさまに、推測したものの
100%確実ではないので解説に書けなかったアレッサンドリーニの
こうした「仕掛け」の一端をお伝えし、来るべき演奏会への
アペリティフにしていただければと思い、パソコンのキーを叩く
次第です。いくつかのキーワードがあるのですが、順を追って。

(1)「器楽的なもの」と「声楽的なもの」の対比。
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アレッサンドリーニはしばしばバロック時代の音楽は「声楽と器楽が
相互に深く影響しあっている」と書いていますが、このプログラムに
おいて前半は「器楽的な器楽曲」、後半は「声楽的な器楽曲」に
スポットがあてられている、といっていいでしょう。
前半は舞曲にはじまり、トッカータ、パサカーリェ(パッサカーリャ)、
ソナタと器楽曲のさまざまなジャンルがほぼその発展史にそって
ならべられています。一方後半はクープランのオルガン・ミサ。
この種のミサは聖歌隊のグレゴリオ聖歌唱がまず歌われ、その旋律を
受け継いでオルガンが応答をかえす、というスタイルをとっています
(今回聖歌隊はもちろんつきませんが)。またバッハのコラールは
賛美歌の旋律を基にした楽曲です。私たちはこうして、前半後半を通じ、
バロック器楽曲の発展、および声と器楽との相関性を理解することが
できるでしょう。

(2)「変奏曲」つながり。
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プログラムの要所要所には変奏曲の形式でできた楽曲が配され、
全体の統一感を高めています。まず1曲目のスヴェーリンク<大公の
舞踏会>は舞曲にして変奏曲。4曲目のカバニーリェスのパサカーリェ
はバロック時代に特徴的な、低音部主題に基づく変奏曲(ブラームスも
交響曲第4番の終楽章でこれをやっていますね)。
最後のバッハ<おお神よ、汝まことなる神よ>はコラールをもとにした
変奏曲(コラール・パルティータ)と、それぞれ性格が違う変奏曲で
あるのも憎いです。

(3)宗教曲つながり。
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前半のフレスコバルディ<聖体奉挙のためのトッカータ>もミサの
途中で演奏される楽曲。後半のクープラン、バッハと聴き比べると、
教会とかかわるオルガンのあり方も、国によってずいぶん違うことが
わかっておもしろいです。

(4)ちなみに前半では
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フレスコバルディとアレッサンドリーニ、
それぞれまったく違うタイプのトッカータが隣り合わされ対比
させられています。

(5)バッハの4曲もおもしろい。
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同一旋律によるコラール3曲は、ほぼ作曲時代順に並べられており、
バッハの手法が次第に手のこんだものになってゆく過程が楽しめます
(ただし最初のBWV717は偽作の疑いが強いのですが)。そして最後に
置かれた<おお神よ、汝まことなる神よ>はおそらくリューネブルク
時代のバッハが書いた作品と考えられており、だとするとなんと
15-16歳の作!たしかに、それ以前の作曲家たちの影響が色濃い、
古風な作風の曲です。スヴェーリンク、フレスコバルディという
初期バロック鍵盤音楽の大家2人の作品で始まったこのプログラムは
ほぼ音楽史の流れにそって進み、バロック最後の大家バッハに至る
わけですが、この曲でプログラムはふたたびバッハ以前の音楽へ
まなざしを投げかけて終わるというわけです。

とまあ、いささか重箱の隅的な話が並んでしまいましたが、この迷宮
のようなオルガン・プログラム、いろいろ予備知識を仕込んでおいて
聴くと驚くほどさまざまな顔を見せてくれると思います。これらの
キーワードが果たして迷宮の正しい進み方を示す導きの糸なのか、
それともさらなる迷宮の奥へと誘い込まれてしまう悪魔の道しるべ
なのか、解答はぜひエントランスホールで!
ちなみにプログラムには慶応義塾大学教授・美山良夫氏の
アレッサンドリーニ&オルガン論も掲載されます。ご期待ください!

担当:矢沢

http://www.arttowermito.or.jp/music/alessandrinij.html
Tel. 029-231-8000(9:30-18:00、月曜休)

http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html 次回配信をお楽しみに!---