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Date: Thu, 12 Jul 2001 18:13:40 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,01226] Ralph Towner Live at TLG
To: atm-info@arttowermito.or.jp
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▼水戸芸術館ATM速報2001年7月12日発----------------------
おすすめは、TLGサラダです、というような周辺情報は、私に
お任せください。
矢沢主任学芸員によるラルフ・タウナー TLG でのライブレポートを
お届けします。(一緒に行った訳では全然ありません。念のため。)
Ralph Towner Live at "TRIBUTE TO THE LOVE GENERATION"
7/11/2001
Set List
Part 1
1. Joyful Departure
2. Anthem
3. The Prowler
4. Solitary Woman*
5. Jamaica Stopover
6. Waltz For Debby (Bill Evans)
7. Tramonto
8. Veldot
Intermission
9. Beppo
10. Haunted
11. Goodbye, Pork-Pie Hat* (Charles Mingus)
12. I fall In Love Too Easily (Sammy Cahn)
13. Raffish
14. Simone
15. Grolia's Step (Scott Lafaro)
16. Witchi-tai-to* (Jim Pepper)
Encore. Nardis(Bill Evans/Miles Davis)
*Played on 12 Strings Guitar
All compositions by Ralph Towner, except 6,11,12,15,16 and Encore
ラルフ・タウナー、いよいよ来日!水戸公演に先立ち、11日に
お台場のトリビュート・トゥ・ザ・ラブ・ジェネレーション
(以下TLG)で行われたソロ公演を担当・矢沢が聴いてきましたので
ご報告します。
セット・リストをご覧の通り、やはりニュー・アルバム『アンセム』
(ECM/UCCE-1008)収録曲が多く選ばれました(2、3、4、10、11、
14、15)。
というわけで、タウナーをはじめて水戸公演で体験される方は、
『アンセム』をあらかじめ聴いておかれると楽しいでしょう。
その間に1(オレゴンのアルバム『クロッシング』に収録)や 5
(アルバム『シティ・オブ・アイズ』に収録、矢沢は先日の
「FM水戸アップデート」タウナーの回でオープニングに使った)の
ような、従来からのタウナー・ファンにはこたえられないナンバーも
随所にはさまれていました。スタンダードが何曲か挿入されていた
のは予想の範囲内ですが、本編のラストにヤン・ガルバレクのプレイ
で有名な"Witchi-tai-to"が来たのは70年代ECMファン泣かせの
チョイスでしょう。
さてタウナーのソロですが、近年の彼のアルバム傾向からもうかが
える、静謐なグルーヴ感が支配的でした。80年の名盤『ソロ・コン
サート』の頃のどう展開するかわからない狂気すれすれのテンション
は陰をひそめ、余分な装飾が削ぎ落とされた分、一音一音の重みと
美しさが際立ち、音同士の相互関係がよりいっそう有機的、立体的に
浮かび上がってくるのです。
そうして聴いていると、あらためてそのソロが「構造」を見失わない
冷静さに支えられたものであることがよくわかってきます。
なりふりかまわないテクニックへの自己耽溺に進路を見失うことなく、
ひとつの和音が、絡み合う複数の声部が、常に曲全体の構造を
意識して奏でられ、あるべき場所にすっきりとおさまってゆく。
聴き手である僕たちもまた、いたずらな熱狂に我を忘れることなく、
タウナーの正確な羅針盤に従って心地よい航海を楽しむことができる。
こう書くとなんだか大人しくてジャズ本来の即興性の魅力とは
ずいぶん遠い音楽のように聞こえるかもしれませんが、
決してそうではありません。この船長は進むべきルートについては
はっきりわかっているくせに、わざとその進路を見失わせるように
方向を変えたり、暗礁地帯に近づいてみせたりする。聴き手がどこへ
行くのかわからないスリルにひやひやしていると、いつのまにか曲は
進むべき道へと戻っている。つまり、書かれた構造とそこから逸脱
しようとする即興性のせめぎあいとのさじ加減が、絶妙なのです。
『アンセム』の収録曲も、アルバム・ヴァージョンとは大いに姿を
変えていて驚くばかりでした。そして、さきほど「静謐なグルーヴ」
と書きましたが、タウナーの演奏はどんな静かな曲でも自在に
伸縮するリズムのしなりを失うことがありません。聴き手を覚醒した
まま高揚に導くギター・プレイ、それがタウナーのジャズなのです。
使用楽器はクラシカル・ギターが中心でした。近年のタウナーは
どちらかというと12弦よりもこの楽器にウェイトを置いています。
おそろしく体力のいる12弦ギター(vivo7月号掲載の渡辺香津美氏
エッセイ『ラルフ・タウナーの鉄の爪』参照)よりも、
自在なクラシカル・ギターの方に、タウナーの表現の指向性は
傾いているようです。実際、上述のようなタウナーのソロに、
繊細な機動性を備えたクラシカル・ギターはきわめてよくマッチして
いるように思えます。
しかしそれだけに、時折はさまれる、一時期のタウナーの代名詞で
あった12弦ソロの印象が強烈であったこともまた事実です。
あの細胞ごと揺さぶられるような倍音の響きが立ち昇ると、聴き手は
あっという間に異世界へと運ばれてしまいます。タウナーは
この楽器を演奏することを「トレーラーを演奏するようなものだ」と
評していますが、なんというデリケートなトレーラーでしょう。
サム・ペキンパーがタウナーの12弦を聴いていたら、『コンボイ』は
もっと美しい映画になっていたのではないでしょうか。
水戸でも12弦を弾いてくれることを期待しましょう。
さて終演後、魔術的なプレイに酔いしれて楽屋に向った僕を
迎えてくれたタウナー氏は、飄々と枯れたオヤジでした。
あくまで自然体でニコニコしながら、ステージでギターを構えると
鬼と化す。まったく、カッコいいオヤジです。
この日は渡辺香津美氏も来ており、タウナー氏と打ち合せをして
いました。タウナー氏はぎっちり書きこまれた楽譜を香津美氏に渡し、
「これがデュオにいいかもね」とニコニコしています。
渡されて燃える香津美氏。2人のファースト・セッションは金曜日に
香津美氏のスタジオで行われるとのこと。
水戸の公演は、タウナー氏の怜悧なソロと香津美氏との熱いデュオ
とが共に楽しめる、エキサイティングなものとなるでしょう。
残席は少なくなっています。皆様、ぜひこの機会をお逃しなく!
当日はもしかしたらサイン会などもあるかもしれませんよ... 。
矢沢孝樹(水戸芸術館音楽部門主任学芸員)
http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html 次回配信をお楽しみに!---