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Date: Thu, 19 Dec 2002 16:19:02 +0900
From: Tamami Kojima <tamamik@arttowermito.or.jp>
Subject: [atm-info,01527] "Kore Minna Shibai no Hanashi" #2 by Koshiro Matsumoto
To: atm-info@arttowermito.or.jp
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▼水戸芸術館ATM速報2002年12月19日発--------------------
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松本小四郎「これみんな芝居の話」2002・12・17
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『スカパン』の稽古も第二週に入りました。
そこで今回は日本におけるモリエールとフランス演劇の歴史について。
稽古の初日に演出家の串田和美さんとモリエールについて話をして
いるとき、「どうしてフランスの演劇が最近日本で上演されなく
なったのだろうか?」という話になりました。
この十年のことだけを見ても、日本で上演された外国の演劇を考え
ますと、やはりシェイクスピアを始めとするイギリス演劇と
アメリカ現代劇が圧倒的に多いことに驚きます。あとはチェーホフ
とかイプセンとかテネシー・ウイリアムズとかブレヒトとか
ベケットとか、いわゆる日本の現代劇にとっての古典といわれる
劇作家の作品で、フランスの演劇といえば、たしかに60年代に
「不条理演劇」という枠組みでパリで活躍した外国の劇作家が
フランス現代劇を代表する形で日本で上演されたぐらいで、
他にはどうかというとモリエールしかありません。これは誇張では
なく、どうも私たちは、モリエールを17世紀の古典喜劇作家とは
見ていなかったように思えるのです。
モリエールの翻訳の歴史を見ますと、シェイクスピアほどでは
ありませんが、モリエールの最初の全集は1908年(明治41年)に刊行
されました。翻訳者は草野柴二氏です。その後、第二次大戦中、
芥川比呂志氏を中心とする慶応大学の演劇愛好家グループが
『亭主学校』を築地小劇場で上演したり、土井逸雄訳『守銭奴』で
丸山定夫がアルパゴンを演じて大好評を博しました。そして戦後の
混乱がおさまった頃に、新協劇団が小場瀬卓三訳『タルチュフ』を、
俳優座が矢代静一訳『女学者』を上演しています。その後、
鈴木力衛がモリエールの翻訳を本格的に始めて、俳優座、文学座、
劇団雲、ぶどうの会などが、モリエールの主要作品を上演する
ようになりました。
恐らく40代以下の観客はこうした新劇におけるモリエール上演活動を
同時代的に経験していないと思いますが、おそらく当時の新劇人たち
にとって、モリエールは古典喜劇の作家であるだけでなく、戦後の
演劇における喜劇を創造するときの優れたモデルであったのでは
ないかと思われます。たしかに、鈴木力衛訳の全集(中央公論社)を
改めて読みますと、17世紀という時代を忘れて、いまの時代にも
充分に見られる人間のドラマが書かれています。17世紀的な衣裳や
仕草をやめて、もっと現代的な感覚で衣裳や演戯や空間を考えてみる
なら、モリエールはシェイクスピアに匹敵する世界的な劇作家である
ことに気づくかも知れません。
モリエールの他にも、たくさんの劇作家がフランス演劇にはいます。
しかし、モリエールほど時代を超えて、人間の本質をじつに多面的に
描いた劇作家は残念ながらいません。
ACM THEATRE + KUSHIDA WORKING "SCAPIN"
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/1500/1523.html
松本小四郎「これみんな芝居の話」2002・12・9 / 12・11
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/1500/1524.html
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