これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date: Fri, 16 Apr 2004 16:55:50 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,01771] Rehearsal Report: Fazil Say
To: atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id: <49256E78.002B90F4.00@david.arttowermito.or.jp>
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▼水戸芸術館ATM速報2004年4月16日発--------------------

落ち着きのない天才、ファジル・サイ

巷に溢れる「天才往々にして奇人」伝説に与するつもりは毛頭ないの
ですが、ファジル・サイという人を見ていると、そんな存在が
いた方が音楽の世界は確実に楽しくなるな、と思います。
たった 2時間来館しただけなのにもかかわらず、ファジル・サイは
コンサートホール ATMの温度を 3度は高めて帰っていきました。
えっ、ファジル・サイのリサイタルは4月18日じゃないかって?
その通りなのですが、実はそれに先立ち、去る15日に彼は芸術館を
訪れ、リハーサルを行ったのです。普通のピアノなら別に当日来て
弾けばいいのですが、今回はなんといってもMIDIピアノを使う
ストラヴィンスキー<春の祭典>の演奏がありますからね。
この特殊なピアノをあらかじめ試奏する必要がある、というわけです。

MIDIピアノについては折あるごとに触れてきました(以前、
坂本龍一さんと岩井俊雄さんのコラボレーション・パフォーマンスで
使われたことをご記憶の方も多いことでしょう)、要は
「コンピュータのデータによって自動演奏されるピアノ」と思って
いただければよいかと思います。といっても別に「電子ピアノ」では
なく、見た目も音も完全なコンサート・グランドのピアノです。
コードが垂れ下がっていたり黒い謎の箱が接続されていたりするのが
見えなければ、誰もが通常のピアノだと思うでしょう。
ただしもしかしたら、鍵盤に近いほうの脚 2本が通常のピアノより
鍵盤に近い位置に取り付けられていることにお気づきになられるかも
しれません。そして、黒い謎の箱に演奏データの入ったフロッピーを
さしこむとあら不思議、鍵盤が勝手に動き始め、「ヴァーチャル・
サイ」の演奏が始まるのです!音は電気を通さない完全な生ピアノの
音ですし、アーティキュレーションやタッチまでかなり正確に再現
されていて、ちょっと驚きます。もちろん生演奏とその場で比べれば、
揺らぎの少ない安定感がかえって気になってくるかもしれませんが、
ブラインド・テストで聴いたらちょっと自動演奏だとは気づかない
かもしれません。このピアノは14日には芸術館に搬入され、ヤマハの
スタッフの方が一日がかりで調整していました。
えらく繊細な楽器です。

さて、サイ。昨日札幌キタラホールでのリサイタルを終え、
朝札幌を飛行機で立ち、羽田から車で芸術館に直行という
ハードスケジュールに、少々お疲れ気味のご様子。
でも「忙しいのはみな同じだからねー」と言いながらリクエストした
コーラを飲み干すと、さっそくピアノに向かいます。
なんの予備練習もなく、いきなり<春の祭典>!
MIDIピアノが第 2ピアノのパートを奏で始めると、おもむろに
その鍵盤上でサイが自分のパートを弾き始めます。ここまでの記述で
お気づきになられたかもしれませんが、使用するピアノはMIDIピアノ
1台のみ。サイは一人連弾、一人多重演奏を一台のピアノの上で
やってしまうのです。自動演奏で勝手に動き回る鍵盤を目の前に
しながら演奏するのですよ。想像するだけで頭がおかしくなりそう
です。サイは「こういうことをやるのはこの曲だけ、他の四手用作品
だったらためらいなく別の誰かと共演する」と言っていますが、
それだけ<春の祭典>を深く愛し、自分ですべてをコントロール
したいのでしょう。

さてサイは最初は流して弾いている感じでしたが、曲が進むにつれ
白熱し、足を踏み鳴らし、腰を浮かせ、時に立ち上がり、唸りながら
鍵盤を鳴らしまくります(黒田恭一先生の「おいおい、ピアノが
可哀相じゃないか!」という名フレーズを思い出します)。ほとんど
本番かと思うような「入り込み」方。不思議なことに、コンピュータ
による第 2ピアノ・パートも、サイ自身のライヴ演奏に煽られて
活気づいてゆくような印象があるのです。
ときおり手を振りかざしながら演奏するサイは、おそらく頭の中で
この曲を指揮しているのでしょう。オーケストラ版よりいっそう速く、
複雑なリズムの饗宴がダイレクトに伝わってくる<春の祭典>は
間違いなく途方もない聴取体験をもたらしてくれるでしょう。

終わったあとはヤマハの方々と入念なサウンド・チェック。
「もっと迫力があってもいい」「大きすぎないよね?」と、
この曲のパワーをいささかも減じることなく聴衆に伝えたいという
意志がありあり。リハーサルでこれなのですから、本番ではいったい
どうなることやら!

その後サイは「ちょっとピアノを弾いたり歩いたりしたい」(筆者の
聞き違いでなければこう言っていた)と言い、ラヴェル<ソナチネ>
の第 2楽章をこの上なく優しく奏ではじめました。しかしやがて
弾くのをやめると、なんか口の中でモゴモゴつぶやきながら舞台上を
うろうろと徘徊。しばし歩いた後今度は<イタリア協奏曲>、また
歩き回ってはモーツァルト、と、なるほどこれが「歩いたりしたい」
という奴かと納得。彼の中では音楽的思考が渦を巻き、それを形に
する作業が追いつかないという様子ですね。
ピアノを弾く、というより思考を形にするためにピアノがある、
という感じです。

 2時間のリハーサルを終え、東京に戻る車を待つ間たばこを一服。
ここでサイはようやく日常に戻ってきた様子でした。
「マエストロ・オザワが指揮してるんだって?」
「このホールではジャズやワールド・ミュージックもやるのかい?」
と矢継ぎ早に質問を浴びせるサイ。
「やりますよ、今年の夏にはファンファーレ・チォカーリアっていう
ルーマニアのブラスを呼びます」と言うと、
「バルカンの音楽はいいね」とにやり。
「トルコの音楽もいいですよね」と言うとまたにやり。
「日曜日を楽しみにしているよ」と言い残し、サイは車中の人と
なったのでした。
16日は長野、17日は富山とハードなツアーは続きますが、
心より愛する<春の祭典>を今回日本ツアーで唯一弾ける水戸が、
サイの心に深く刻まれたことは確かでしょう。

さあ、18日には私たちも満場の喝采でファジル・サイの登場を
迎えようではありませんか!

矢澤 孝樹(水戸芸術館・音楽部門主任学芸員)

*現在芸術館の館内ではワーナーミュージックのご提供により、
ファジル・サイのプロモーション・ヴィデオが流れています。
またミュージアム・ショップ『コントルポアン』ではサイのCD
全タイトルをそろえ、店内でもヘヴィー・ローテーション中!
ぜひご覧ください。
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ファジル・サイ  ピアノ・リサイタル
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2004年4月18日(日)13:30開場  14:00開演
料金(全席指定):A席4,000円  B席3,000円
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/1700/1719.html
インタビュー記事も下記にございます。
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/1700/1766.html

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承っております。
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Tel. 029-231-8000(朝9:30〜)

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