これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date: Tue, 10 Aug 2004 21:01:03 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,01819] Special essay on "Fanfare Ciocarlia" by Takaki Yazawa
To: atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id: <49256EEC.00420404.00@david.arttowermito.or.jp>
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▼水戸芸術館ATM速報2004年8月10日発----------------------

皆様、残暑お見舞い申し上げます。

暑いですが、こんなときは逆に熱い音楽で夏バテを吹き飛ばしたい
ですね(ロック・フェスが夏に集中するのも、よくわかるというもの
です)。

そう、お忘れの方はいらっしゃらないでしょうか、
8月27日(金)水戸芸術館コンサートホールATMにこの上なく熱い
音楽性熱帯高気圧、超絶熱狂型ジプシー・ブラス・バンド
「ファンファーレ・チォカリーア」が襲来することを。
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/1700/1776.html

おかげさまですでに多くのお客様がいらっしゃってくださるご予定
ですが、実はまだ残席があるのです!
このコンサートにいらっしゃれない方が一人でもこの世に存在する
というのは私、担当として耐え難いまでに悲しい思いがいたします
ので、あらためてファンファーレ・チォカリーアについてご紹介
させていただきたく、この場をお借りした次第です。

というわけで前置きが長くなりましたが、Q&Aの形をとって、
速報受信のお客様にチォカリーアのひみつを vivo に先行して
(8月20日すぎに届く予定)残らず情報公開させていただきたいと
思います!

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Q1:ファンファーレ・チォカリーアは、どこから来たの?

世界地図で、東欧ルーマニアをご覧ください。その北東部、
モルドバと踵を接するモルダヴィア地方に、彼らの故郷であり、
今も住んでいるゼチェ・プレジーニ村があります。
世界地図にはもちろん載っていませんし、ルーマニアの地図を探して
も、きっと見つかりません。この村は地図にも載らないほど小さな、
人口わずか400人の村なのです。住民はすべてジプシー(ロマ)。
ジプシーの人たちは街の郊外の一角に住まわされることが多いのです
が、これは珍しくも100%ジプシーたちの村。
「鉄道は通っていますが駅はなく、降りるときにはカーヴで減速した
  ときに飛び降りる(乗るときは 3km先の駅まで歩く)」
「公衆電話は一台しかなく、全員共用」
「郵便局も雑貨屋も食堂も水道もない」
「しかしなぜかバーは 2軒ある」
といったエピソードからも、この村のつつましさが(バーはともかく)
おわかりいただけると思います。ちなみにゼチェ・プレジーニとは
「10ヘクタール」の意味で、昔々、ひとりの富豪が丘の上にいた
何人かのジプシーに10ヘクタールの土地を与えた、という村誕生の
エピソードに由来するということです。

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Q2:そんな小さな村に、なぜ凄いブラス・バンドが?

ジプシーの人たちの天職のひとつに、音楽があります。
世界各地のジプシーたちが、それぞれ独自のジプシー音楽を持って
います。スペインのフラメンコ、フランスのマヌーシュ・スウィング、
ロシアのロマンスなどなど。
彼らにとって音楽は自分たちの魂の一部というべき必須の表現手段で
あり、同時に生活するための具体的な手段です。ゼチェ・プレジーニ
は、約100人の成人男性の85%までが音楽家であるという、「音楽村」
であり、冠婚葬祭などの行事に出演しては演奏し、生計を立てる
という伝統を、先祖代々受け継いできました。
こうした行事では雇い主の要求が絶対ですから、
意に沿わないレパートリーを何回でも繰り返さなくてはならないとか、
延々と演奏させられてやめれば怒られるとか、
ちょっとでも演奏が不評ならもう2度とお声がかからないとか、
不条理なまでにハードな条件にがんじがらめにされるわけです
(ジプシー/ロマの人々が長いこと差別されてきたことも
  忘れてはならないでしょう)。
こうしたしゃれにならない厳しさの中で、人々を喜ばせ、
盛り上げるための最高の技術とプロフェッショナリズムが磨かれ、
「世界最速」と呼ばれるそのアンサンブルが誕生したわけです。

ところで、昨年芸術館に登場した同じルーマニアのバンド『タラフ・
ドゥ・ハイドゥークス』のことを思い出し、彼らは弦楽バンドであり、
ルーマニアのジプシー音楽家は弦が主体だそうだが、
なぜファンファーレ・チォカリーアはブラス・バンドなのか、と
思われる方もいらっしゃるでしょう。
これには、2つの歴史的な要因があります。はるか昔、オスマン・
トルコがバルカンを制圧したときに持ち込んだ軍楽隊の影響
(ルーマニア国外ではブルガリア、セルビア、マケドニアでもブラス
  がさかん)、そして19世紀初頭、ドイツやオーストリアで流行した
ブラス・バンドを移民たちが持ち込んだ影響。しかしそれ以上に、
環境的な要因を忘れるわけにはいきません。モルダヴィアのジプシー
たちは極めて貧困で、他の地方のジプシーたちのように音楽だけで
生計を立てることができなかったのです。生きるために農業を兼業
せねばならず、その結果指は過酷な労働で節くれだち、
ヴァイオリンを奏でるには不向きとなった。
そこで彼らは、管楽器を選んだというわけです。

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Q3:彼らは昔から有名だった?

いえ、ルーマニアを支配したチャウシェスクの独裁政権の時代、
彼らの存在は公的には黙殺されていました。
外国に対してはルーマニアの伝統音楽しか存在しない、という
態度表明だったわけですね。それ以上に、ロマというマイノリティの
人々があそこまでパワフルでノリノリな音楽で人々を熱狂させている
ことは、体制側にとっては「なんかヤバい気がする」、と思われたの
でしょう。

じゃあチャウシェスク体制が崩壊し、ルーマニアが自由になったから、
一気にこうした音楽家たちがメジャーになったかといえば、そうでも
ありません。80年代からひそかに浸透していたのですが、シンセサイ
ザーの普及が、こうした音楽家の活動の幅を狭めつつありました。
1990年代中頃には、現役で活躍しているブラス・バンドの数はだいぶ
減少していたようです。

しかし、「途方もないブラス・バンドがいる」という噂を聞きつけた
ひとりのドイツ人音楽家ヘンリー・エルンストが1996年、ゼチェ・
プラジーニ村を訪れたことで、彼らの運命は大きく反転します。
音楽家たちの中心的存在、イオン・イヴァンチャにばったり出くわし
たヘンリーは、「この村にブラス・バンドはあるか?」とたずねた
ところ、村のバーに案内され、強烈極まりない演奏の歓迎を受ける
ことになります。その演奏に腰を抜かすほど驚嘆し、心酔した
ヘンリーは友人ヘルムート・ノイマンと共にマネジメントを買って出、
「アスファルト・タンゴ」というマネージメント・オフィス(この名
はセカンド・アルバム1曲目の曲名にもなっています)を設立して
彼らの音楽を世界に広げることに全力を傾けることになるのです。
http://www.asphalt-tango.de/home.htm
http://www.asphalt-tango.de/welcome-atp.htm

村の音楽家から12人の精鋭メンバーが選りすぐられ、
彼らは「ファンファーレ・チォカリーア」の名のもと、
世界に雄飛することになりました。
このあたりは、ドキュメンタリー映画『炎のジプシー・ブラス〜
地図にない村から』で活写されていますが、たった数年で、
彼らはベルリン、ミラノ、パリ、東京など、世界各地で満場の観客を
熱狂させ、年間200公演をこなす超人気バンドへと成長したのです。
http://www.plankton.co.jp/

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Q4:「ファンファーレ・チォカリーア」の意味は?

「雲雀(ひばり)のファンファーレ」。
「ひばり」は、彼らの言葉で名人芸をも意味するそうです。

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Q5:どんな音楽をやるの?

もうこれは聴いていただくのが一番ですが、あえて形容するならば
「1分間に200のビートをたたき出す、スカ・パンクも青ざめる
低音パート(チューバやホルン、パーカッション)が怒涛のごとく
疾走するその上で、粘っこくセクシーなリフとメロディ(クラリ
ネット、トランペット、サクソフォーン)が聴くもののハートと腰を
直撃し、まぼゆいインプロヴィゼーションの花びらが雨あられと
聴くものに降り注ぎ歓喜へと導く、赤銅色のブラス・ミュージック」
としか言いようがありません。
こんな色っぽくてパワフルな音楽が、楽器を持たなきゃどこからどう
見ても寄り合いのおやじという雰囲気の12人から奏でられるのです
から、たまりません。さらにトランペットのラドゥ、チマイの2人が
繰り出すしょっぱいヴォーカルもたまらない。加えて、ジプシー・
ダンサーのアウレリア・サンドゥ(タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの
人気長老音楽家、ニコラエ・ネアクシュの孫!ちなみにヘンリーの
奥さんにもなってしまいました。ディープですね)の妖艶な踊りも
華を添えます。「どんな曲をやるか」なんて説明不要、
耳にしていただければ一生はなれない強力リフ満載の
ジプシー・ミュージックであります!

ひとこと添えるなら、彼らは海外に出て以来、音楽性の幅をどんどん
広げつつあります。各地で出会った音楽で気に入ったものは、
どんどんチォカリーア流にアレンジして自分たちの音楽にしてしまう
のです。フリオ・イグレシアスとかアバとか... 今度のツアーだって、
ちゃっかり日本のポップスとかレパートリーに入れてしまっている
かもしれません。

最新アルバムではダン・アルメアンカやブルガリアン・ヴォイスと
いった東欧のミュージシャンとも共演していますが、彼らの音楽性の
核は毛ほどもゆるがないのがすごい。
柔軟にして貪欲な音楽胃袋の持ち主、
それがファンファーレ・チォカリーアであります。
前回の日本公演では梅津和時さんと熱狂のセッションをやって
いましたし、今年佐渡では鼓童と共演します。
こないだ美術のオープニングに登場したチャンチキ・トルネエドとの
共演も聴いてみたくなりますね。

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Q6: CDは出ているの?

『ラジオ・パシュカニ』『バロ・ビアオ』『イアグ・バリ〜炎の
ジプシー・ブラス』の 3枚が出ていて、ミュージアム・ショップ
「コントルポアン」でガンガンかかっています。3枚を順に聴くと
前述したような彼らの音楽性の変化も楽しめます。
ピーター・バラカン、黒田恭一、伊東信宏、白石かずこ、清水靖晃、
岸田今日子、山口智子といった実にさまざまな人々が、彼らの演奏に
ノック・アウトされ、賛辞を送っていることも、幅広い層の聴衆の心
をとらえてやまない彼らの音楽の魅力の証明である、と申し添えて
おきましょう。

ちなみに館内モニターで映画『炎のジプシー・ブラス』の予告編など、
チォカリーアの映像を観ることができます。
少なくとも8月15日以降は公演当日まで確実に流れています。

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Q7:芸術館のライヴはどんな感じ?

今回の日本ツアーではどの公演もPAが入りますが、
水戸は基本的にノーPA、生ブラスの迫力を楽しめるのはここだけです。
ヴォーカルのみPAが入ります。
終わったあとはきっと昨年のタラフ同様、
メンバーが勝手に外に出て行ってサインをしまくるでしょう。
いやといってもやるでしょう(笑)!

というわけで長くなりましたが、
夏の終わりをぜひファンファーレ・チォカリーアの
ブラス・サウンドでお楽しみいただけますよう!
お待ちしております。よいお席はお早めに!

水戸芸術館音楽部門主任学芸員 矢澤孝樹

*文中で用いられている「ジプシー」の名は蔑称とされ
  近年日本では「ロマ族」の呼称が一般的ですが、
  ロマ民族自身も自らの文化に誇りを持って「ジプシー」の呼称を
  使用するケースが増えています(ファンファーレ・チォカリーアの
  面々も、そのように考えており、「要は使う人間の気持ちの問題」
  としています)。この演奏会で「ジプシー」の名を使用するのも、
  彼らの築いてきた文化に敬意を表する意味が込められています。

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ファンファーレ・チォカリーア  東欧吹奏楽団
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2004年 8月27日(金)18:30開場 19:00開演
会場:水戸芸術館コンサートホールATM
主催:財団法人 水戸市芸術振興財団
料金(全席指定):A席4,000円/B席3,000円
・館エントランスホールチケットカウンター(9:30〜18:00、月曜休)
・館チケット予約センター Tel. 029-231-8000(9:30〜18:00、月曜休)

ATM速報受信のお客様に限り、下記館ウェブサイトからもお申し込み
いただけます。(公演前日または完売まで24時間無休)
https://www.arttowermito.or.jp/t/authenticate.cgi

http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html 次回配信をお楽しみに!---