これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date: Tue, 21 Sep 2004 15:59:27 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,01844] Report on "Mito dell'arco the 7th Concert" by Takaki Yazawa
To: atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id: <49256F16.00266783.00@david.arttowermito.or.jp>
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▼水戸芸術館ATM速報2004年9月21日発--------------------

ミト・デラルコ、9月19日、リハーサル開始!
矢澤孝樹(水戸芸術館音楽部門主任学芸員)

2004年9月19日水戸芸術館に集結した寺神戸亮、ソフィー・ジェント、
森田芳子、鈴木秀美の4人は、広場にバッタが君臨し、劇場では
多数の若人たちが短編映像祭に情熱を燃やし、コンサートホールでは
「水戸の街に響け!300人の『第9』」の第1回練習がにぎやかに
行われているその中で、地下2Fのリハーサル室Aを舞台に密かに
練習をスタートさせた... って、なにもそんなに隠密ぶる必要は
まったくないのですが、やってます、ミト・デラルコ、今日も練習を。
きのう全体をさらった後、今日はモーツァルトのト長調四重奏曲に
取り組んでいるのですが、開始から(休憩1時をはさんで)約5時間、
まだ第4楽章をやっております!いつもながら入念にフレージングや
アーティキュレーションを洗い直し、強弱やテンポの変化について
議論を重ね、モーツァルトが仕掛けた四重奏のマジックを残らず稼動
させようと熱いセッションが続いています。鈴木秀美は今回の演奏会
のためにモーツァルトとハイドンの自筆譜コピーを持ち込む張り切り
ぶり。この集中力と熱意が、弦楽四重奏というジャンルの面白さ、
奥深さを実感させてくれる演奏に結実するはずです。
皆さんぜひご期待を。

さて、今回の演奏会は、ちらしによると「ハイドンとモーツァルト
という天才の創造的な交感も楽しめるこのプログラム」と書かれて
おります。いったいなにがどう「創造的な交感」なのか、と疑問を
お持ちになられた方もいらっしゃるでしょうね、このチラシだけでは
まったくその通りです(って他人事みたいな顔してますが、
すみません、文責は私です)。自分で書いた文章なのですから、
責任をとって、ここで今回のプログラムに隠された
「2人の創造的交感」のドキュメントを
ATM速報読者の皆様にお伝えしたいと思います!

ひらたく言ってしまえば、今回の演奏会は、
弦楽四重奏というジャンルをめぐる2人の天才のキャッチボール、
ということになります。
最初にボールを投げたのはハイドンでした。
弦楽四重奏という当時生まれたばかり、流行りつつあったジャンルを、
決定的にすごいものにしてしまったのは、何はさておきハイドンの
<作品9> <作品17> <作品20>にとどめをさします。
ハイドンの弦楽四重奏曲は、それまでにも1750年代末から60年代初頭
に書かれた<作品1> <作品2>という2つの曲集がありました。
しかしこれらは、「ディヴェルティメント」と題されていて、
5楽章からなるわりと気楽な性格の音楽でした。それに「バッソ」と
表記された最低声部はチェロのみならずコントラバスやヴィオローネ
といった楽器を重ねて演奏していたらしい。どちらかというと「プレ
弦楽四重奏」という感じのする曲集ですね。
(実はこの後に<作品3>という弦楽四重曲集があり、あの有名な
<セレナード>という通称のある素敵な四重奏曲もここに含まれるの
ですが、どうやらこれはロマン・ホフシュテッターというハイドンの
崇拝者が書いた曲らしく、現在ハイドンの真作ではないということに
なっています)
しかし<作品1> <作品2>から約10年、1760年代末から70年代初頭
にかけて生み出された<作品9> <作品17> <作品20>という3つの
曲集において、(まだ「ディヴェルティメント」というタイトルは
残していたものの)ハイドンはこのジャンルにおける歴史的大飛躍を
遂げてしまいました。
いやもうこの3作は、SF作家ウィリアム・ギブスンのサイバーパンク
三部作(『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』『モナリザ・
オーヴァドライヴ』)みたいなものです。同時代への影響が途方も
なく大きいという点で共通し、また大きすぎて創った本人にも
プレッシャーになってしまったという点でも似ています。
楽章は4つに整理され、一部実験的な例外はあるにせよ、
1. 速いソナタ形式の楽章 -- 2. メヌエット(3拍子の舞曲) --
3. 緩徐(ゆっくりした)楽章 -- 4. 急速楽章、という形で統一
されます(メヌエットと緩徐楽章の順番はしばしば替わります)。
なによりも、四つの声部がまるで議論をする四人の人間のように
密に絡み合い(↑これはゲーテの表現ですが)、聴き手に耳の喜び
とともに知的な興奮をも与えてくれるものへと変貌しました。
<作品1> <作品2>を聴いた後で<作品9>を聴くとじっさい、
普通電車が突然新幹線に化けたような感じで「おおっ!」と
驚かずにはいられません。
中でも<作品20>は、「三部作」(とハイドンが意図していたわけ
ではないかもしれませんが)のラストを飾るだけあって、一番密度が
高い、聴き応えのある曲がそろっています。「形」を作りながら
それをワンパターンに陥らせないハイドンの技も冴えており、
集中力の高さに、ハイドンの作品としては珍しく「聴き疲れ」が
するくらい(6曲中3曲の終楽章がフーガで書かれているのも
その印象を強めているかもしれません)。それに、感情表現の幅が
とても広く、一時期これはハイドンの「疾風怒濤期」(鈴木秀美氏の
vivoに執筆した記事をお読みいただければこの呼称はハイドンの
この時期の作品とは無関係だということがお分かりいただけると思い
ますが)を代表する作品だ、と言われたのも無理からぬところです。
ちなみに今回演奏される作品20の4は、6曲の中でも一番明快で
すっきり見通しがよく、のちのハイドンの弦楽四重奏曲につながる
世界を垣間見せているという気がします。
さて、これだけ完成度の高い6曲を書いてしまったハイドンは
さすがにこれ以上同方向での展開は無理、と考えたのか、
弦楽四重奏曲の発表を10年くらいやめてしまいます。たとえるならば、
『クイーン2』でハード・ロック路線を極めてしまったクイーンが、
懸命にも違う音楽性を模索し『シアー・ハート・アタック』以降の
展開に向かった、とでもいうべきでしょうか。
さてハイドンが次なる弦楽四重奏曲集「作品33」を発表するのは
1782年。しかしその間に、ハイドンの投げたボールに即座に反応した
若き天才がおりました。彼の名はヴォルフガング・アマデウス・
モーツァルト... 。

とここまで書いたところで、もう字数オーヴァーもはなはだしい限り
です。続きは明日の後編で!(矢澤孝樹)

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ミト・デラルコ 第7回演奏会 情報は下記にございます。
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/1700/1785.html
2004年9月25日(土)18:00開場 18:30開演
水戸芸術館コンサートホールATM
料金(全席指定):A席3,000円 B席2,000円

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http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html 次回配信をお楽しみに!---