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Date: Sat, 5 Mar 2005 19:03:39 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,01922] "Futatsu no Denwa" rehearsal report / web update
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▼水戸芸術館ATM速報2005年3月5日発--------------------
いつもユニークな企画で私たちを驚かせてくれる若杉弘企画運営委員。
3月12日(土)に行われる『ふたつの電話』は、「電話」という
20世紀のコミュニケーション・ツールを題材にした 2つの室内オペラ
(プーランクの <声> とメノッティの <電話>)を組み合わせた、
粋で知的な一夜です。
さて先日東京で行われた立ち稽古の第 1回に、担当矢澤行ってまいり
ましたので、ご報告させていただきます。
立ち稽古とはつまり音楽のみならず演技のつくリハーサルで、演出家
と歌手、演奏家が一体となって舞台をつくっていく過程であります。
今回の演出は栗山昌良さん。戦後日本のオペラ演出を担ってきた重鎮
であり、オペラ界の生ける歴史というべき巨匠です。芸術館では、
市民オペラ『フィガロの結婚』や「オペラの花束をあなたへ」シリー
ズ『蝶々夫人』などの演出を手がけられていますので、その名舞台を
ご記憶の方も多いでしょう。
さてリハーサルは、<電話> から始まりました。
栗山さんの演出は、ことばの最良の意味で「基本に忠実」という印象
があります。まず、<電話> に登場するカップルを演ずる高橋薫子
さんと立花敏弘さんを前に、ふたりの人物像や時代背景、それを現代
に再生することの意味と難しさについてレクチャー。本質について
基本的な理解をしてもらったあとで、ふたりに演じてもらい、その
過程でチェックを入れながらルーシーとベンというふたりの登場人物
の造型を行っていきます。チェックを入れるときも、具体的に細かい
指示を下すときもあれば、演技者に考えてもらう余地を残すときも
あり、自分の考えるイメージに盲従させるようなことはありません。
厳しいチェックは、あくまで役柄の本質的な理解からはずれないため
であり、演技者の能力を尊重しそれを最大限に引き出すことが常に
目指されていました。
それにしても、栗山さんにせよ、若杉企画運営委員にせよ、ある年代
以上でオペラに関わられてきた方にとって、メノッティという作曲家
は特別な存在であるように思われます。いわば、今の私たちにとって
のアンドリュー・ロイド・ウェッバーのような、当時の超人気作家
だったようです。栗山さんも思い出の中で、新橋演舞場で <電話>
が日本初演されたときには、一週間連続で満席の盛況だった、と語ら
れていました。ありあまるほどの旋律の才に恵まれ、センスと機知に
富んだメノッティの音楽自体、多くの聴衆の心をひきつけるものです
が、同じくらい、そこで描かれている生き生きした同時代のアメリカ
社会の風俗も、また当時の聴衆を魅了したように思われてなりません。
続いてはプーランクの <声>。この、別れゆく恋人と最後の電話を
かわす女の悲痛な独白劇は、同じ電話をめぐる恋愛を扱いながら、
<電話> とはまったく対照的な(表裏一体、というべきかもしれま
せんが)キャラクターの作品です。
演ずる釜洞祐子さんは、この作品を得意としています。栗山さんは
<電話> のときとは対照的に、まず釜洞さんの役作りにまかせ、
演ずる過程で自分の意見をはさんでゆく、というアプローチをとり
ました。最初からすごい集中力で演ずる釜洞さんと、それを見つめ、
鋭い卓見をさしはさんでゆく栗山さん。それは「女優」と「演出家」
の白熱したセッションでした。40分の作品ですが、3時間の練習時間
を使い切ってもまだ全曲の半分強にしか到達しない濃密なリハーサル
の緊張感には、立ち会っている私もくたくたになるほどでした。
特に栗山さんの演出で「さすが!」と思ったのは、曲に頻繁に出て
くるフェルマータの扱い。音楽の流れが断ち切られる、いわば「句読
点」であるフェルマータが、それぞれ物語り上どういう意味を持つか
を明快に指摘され(「ここでは電話の向こう側で男がうろたえてるん
だ」等々)、圧巻の限りでした。ちなみに栗山さんは、1970年にこの
オペラの日本初演を演出されているそうです(主演は伊藤京子さん)。
ピアノの谷池さんは、ご存知オペラ伴奏の名手。曲を知り尽くした
伴奏で、歌手のテンポが変わっても何気ない顔でつけ、入りを間違え
るとすかさず歌って導き、と当意即妙。栗山さんが、「僕はこの2曲、
どちらもオーケストラ版よりもピアノ伴奏版の方が好きなんだ。凝縮
されているし、むしろ想像力を広げてくれる」といったことをおっし
ゃっていましたが、それはまさに谷池さんのような伴奏だからこそ
言えることであるに違いありません。
この対照的な2作、舞台セットはあえてまったく同じつくりであり、
電話だけが時代と場所に応じて姿を変えています。
視覚的変化を最小限にとどめることによって、逆に2作の対照性を
際立たせる演出の力を私たちはたっぷりと感じることができるはず
です。
芸術館ならではのオペラ公演である今回の企画、リハーサルに立ち
会っていてこれはますます皆さんに観て、聴いていただきたいと
思っております。
水戸芸術館で一夜しか行わないこの企画、見逃したらもう 2度と
この豪華な組み合わせに出会うことはできないかもしれません。
皆様ぜひ、こぞっておいでください!
矢澤孝樹(水戸芸術館音楽部門主任学芸員)
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プーランク:<声> & メノッティ:<電話>
室内オペラ ふたつの電話
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http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/1800/1897.html
2004年3月12日(土)16:30開場 17:00開演
*17:00より若杉弘によるプレトークあり
料金(全席指定):A席5,000円 B席4,000円
チケットは下記でお取り扱いいたしております。
・館エントランスホールチケットカウンター(9:30〜18:00、月曜休)
・館チケット予約センター Tel. 029-231-8000(9:30〜18:00、月曜休)
・ATM速報受信のお客様は下記館サイトよりどうぞ。(無休)
https://www.arttowermito.or.jp/t/authenticate.cgi
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