これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date: Wed, 30 Nov 2005 20:57:51 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,02040] SAYAKA Special by Yazawa
To: atm-info@arttowermito.or.jp
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▼水戸芸術館ATM速報2005年11月30日発 (その1)--------

明日12月 1日(木)にいよいよ実施される庄司紗矢香ヴァイオリン・
リサイタル。先日の水戸室内管弦楽団第63回定期演奏会をお聴きに
なられ、樫本大進のすがすがしく伸びやかなヴァイオリンを
堪能された方々、ひと月たたない内にまたもや日本の若手を代表する
稀有なヴァイオリニストにお会いいただくことになるわけです。
このふたつの演奏会にはさまれた水戸室内管弦楽団第64回定期演奏会
ではゲルバーやクスマウルが登場して濃厚な名演を聴かせてくれまし
たし、まったく、こんな強力なコンサートが続いていいものでしょう
か・・・?(ご安心ください、水戸芸術館でご紹介していない
すぐれた世界のアーティストは、まだまだたくさんいます。ネタ切れ
なんて、永遠にあり得ません)
それはさておき、庄司紗矢香です。22歳にして世界のSAYAKA、
ドイツ・グラモフォンからCDが次々インターナショナル・リリース
されている彼女(12月末にはチョン・ミュンフン指揮するフランス
国立放送管弦楽団と共演したメンデルスゾーンとチャイコフスキーの
ヴァイオリン協奏曲という超強力盤が登場します)。樫本大進とは
また違う彼女のヴァイオリンの魅力についてはもうすぐ皆様のお手許
に届くvivo12月号の紹介記事でご覧いただくとして、ここではそこで
あまり触れられなかった演奏曲目(どれも彼女がまだCD録音していない
ものばかりです!)にスポットをあて、庄司紗矢香本人のコメント
(共同通信配信記事から引用させていただきました)を引きながら
ご紹介することにいたしましょう。ATM速報の皆様にお届けする、
「担当の考える今回の聴きどころ」です。以下、曲名のすぐあとの
カギカッコは、庄司さんの曲目についてのコメントです。

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シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105
「ドイツ語の詩がおさまるような、美しい歌曲の調べ」
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ああ、そうですねえ、と膝を打ちたくなるような庄司さんのコメント
です。特にこれは第2楽章のアレグレットにあてはまるという気が
します。こないだのマティアス・ゲルネのリサイタルでシューマンの
歌曲を聴いた記憶がまだ新しい方なら、きっとあの楽章の旋律に、
なにか詩をあてはめてみたくなるに違いありません。
この曲について、私はずっと「シューマン晩年の作品であり、忍び
寄る狂気の足音が聴こえる闇の傑作」という意識で聴いてきました。
クレーメルとアルゲリッチのまさに切れそうな名演でこの曲を
最初に聴いたのも、多分に影響しているかもしれません。そのあと
聴いたビオンディとイリオの録音(これはオリジナル楽器演奏)も、
冒頭からビオンディの異常なポルタメントが炸裂する「狂気系」の
演奏でした。そのようなわけでこの考えはいまも基本的に変わって
いませんし、曲目解説もそのトーンで書いてはいるのですが、しかし
この曲には、暗さだけではなく情熱も明るさもちゃんとあるのですよ
ね。そのことを、庄司さんのコメントで気づかされた気がします。
考えてみれば、1991年に安永徹さんと市野あゆみさんが芸術館で
この曲を奏でたときは(彼らのCDもあります)、がっしりとした構築
力で、シューマンの気高い精神のあり様を伝えてくれる演奏でした。
まだまだこの曲の魅力は掘り起こされる余地がたくさんあります。
庄司さんのコメントには、上述のさまざまな名演とはまた違う、
彼女ならではのこの曲へのアプローチの鍵が隠されているような気が
します。

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ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン・ソナタ 作品134
「死への恐怖を醸している」
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完璧に同意せざるを得ないコメントですね。ショスタコーヴィチの
晩年の作品は、草ひとつ生えていない荒涼たるツンドラの大地に
たったひとり取り残され、膝を抱いて黙想しているような、絶対的
孤独を感じさせる曲がいくつもありますが、これもそのひとつです
(1969年に作曲)。異様に暗いふたつの緩徐楽章の間に、暴風のよう
に荒れ狂うスケルツォがはさまれるという特異な構成。両端楽章に、
プロコフィエフが四半世紀前に書いた名作<ヴァイオリン・ソナタ
第1番>に登場する「墓場を吹き抜ける風」と似たパッセージが吹き
荒れるあたり、慄然とします。
しかしここで恐怖の対象となっている「死」とはなんでしょうね?
単なる物理的な死ではなく、言いたいことが自由に言えない、
表現したいことができないという、当時のソ連社会が強いた
「存在の死」への恐怖なのではないでしょうか。そしてこの曲には、
「どんなに不条理を強いられても、決して譲ることのできない
個人の尊厳」がぎりぎりの形で示されており、そこに深く感動させ
られるのです。庄司さんはロシア文学がお好きなようで、大好きな
作家はドストエフスキー、その他にもゴーゴリやソルジェニーツィン
を愛読されているそうです。議論を呼んだソロモン・ヴォルコフの
『ショスタコーヴィチの証言』も読まれているようですし、
ソルジェニーツィンといえば『イワン・デニソーヴィチの一日』や
『収容所群島』の人ですから、彼女がショスタコーヴィチに
どんな意識で挑むか、興味津々と言わずして何と申せましょう。
それに、彼女はプロコフィエフのソナタのすばらしい録音を昨年
出したばかりです。担当者個人としては、この曲の演奏に最大の
注目です!

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R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18
「ヒロイックな冒険心、生命への肯定感をあおる。
(ショスタコーヴィチのソナタと比べて)
両極端でありながら、両者は表裏一体です」
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うーん、これもまったく同感ですね。
リヒャルト・シュトラウスといえばご存知『ツァラトゥストラかく
語りき』の、あるいは『ばらの騎士』の人。オペラと交響詩の大家
です。彼のいわゆる「絶対音楽」、交響曲、協奏曲、室内楽曲、
ソナタなどは、その大部分が彼の10代から20代前半に集中しています。
いわば修行時代の作品、と見なされることが多いのですが、どれも
堂々たる水準を示しています。
その中で、23歳のときに書かれたこのヴァイオリン・ソナタは彼の
「絶対音楽の時代」の最後を飾る、初期の集大成的な作品です。
旋律は熟しきって甘い香りを放ち、ヴァイオリンはオペラ歌手のよう
に華麗、ピアノはオーケストラのように絢爛豪華。絶対音楽でやるの
はもうこれでおしまい、これから俺は交響詩とオペラで独創的な世界
を目指すのだぞ、という、まさに「ヒロイックな冒険心」に満ち満ち
た曲です。ちなみにこの曲、1998年には竹澤恭子さんと野平一郎さん
のデュオによって芸術館で演奏されています。あの強力コンビの名演
も忘れがたいものがありますが、今回、22歳の庄司さんが23歳の R.
シュトラウスを弾く、というのも実にすばらしい一期一会で、
楽しみですね。
しかし庄司さんの「表裏一体」というコメントはなかなか意味深です。
R. シュトラウスは交響詩とオペラの世界を極めつくしたあと、
最晩年になって『ホルン協奏曲第2番』や『オーボエ協奏曲』と
いった絶対音楽の世界に帰ってきます。音楽家としての生をスタート
させた絶対音楽の世界への帰郷。それはまるで、魂の最後の安息の
場所を見つけたかのよう…。このあたり、鍵といえば鍵なのかもしれ
ません。生命力が横溢したこのソナタの背後に、彼女はなにを読み
取ったのか。そしてショスタコーヴィチから R. シュトラウスへの
流れを、どう彼女が表現するのか。興味と期待はつきません。

最後に彼女の、プログラム全体についてのコメントを
引用しておきましょう。
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「今の私がとらえる、人生の意味を投影した 3曲です」
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そうそう、共演するピアニスト、イタマール・ゴランにも大注目です。
ヴェンゲーロフ、マイスキー、レーピンといった錚々たる奏者たちに
深く信頼されているこの名ピアニストは、庄司紗矢香の音楽を
しっかりと受け止め、羽ばたかせる最高のパートナーとして、
絶妙のリードを見せてくれることでしょう。

なお、公演プログラムには、庄司紗矢香の師である原田幸一郎(ATM
アンサンブル、水戸カルテットメンバー)への特別インタビューも
掲載されます。
これは水戸芸術館の独自取材であり、他では読めません!

チケットはいよいよあとわずか、どうぞこの恐るべき22歳が乗り出す
冒険の夜の目撃者となってください!

矢澤 孝樹(水戸芸術館音楽部門主任学芸員)

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当日券、わずかですがございます!
明日12月 1日朝 9:30より、当日券ご予約をお電話でのみ承ります。
館チケット予約センター Tel. 029-231-8000
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庄司紗矢香ヴァイオリン・リサイタル
ピアノ:イタマール・ゴラン
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2005年12月1日(木)19:00開演 (18:30開場)
水戸芸術館コンサートホールATM
*通常の開演時間と異なりますのでご注意ください。
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105
Schumann:Violin Sonata No.1 in A minor Op.105
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン・ソナタ 作品134
Shostakovich:Violin Sonata Op.134
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18
R.Strauss :Violin Sonata in E-flat major Op.18
料金(全席指定):A席4,000円・B席3,000円
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/2000/2015.html

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