これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date: Mon, 7 Aug 2006 16:15:35 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,02143] Special essay #5 on "KONONO No.1" by Takaki Yazawa
To: atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id: <492571C3.0027E153.00@david.arttowermito.or.jp>
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▼水戸芸術館ATM速報2006年8月7日発 -------------------

皆様こんにちは、矢澤孝樹です。
ようやく梅雨明け、いよいよ本格的な夏ですね。
ひたちなかのロック・フェスも終わり、黄門まつりも幕を閉じ、
さあ次は? もちろんコノノNo.1でしょう。
実は 8月 5日に東京に行ったのですが、
大手レコード店のワールド・ミュージックのコーナーでは
のきなみコノノ来日大キャンペーンを張っていて、
すごいことになっています。
こりゃあ、東京公演盛り上がるでしょうねえ。
日本ツアーの幕開けとなる水戸公演はその意味で
なかなか歴史的意義の大きな公演となりますよ、これは。
これでホールが埋まってなかったらさびしいです。
さあ、みなさん、市民会館にGO!

さて私が東京に行ったのは、皆様よりひと足先に
アフリカン・ミュージックを体験してくるためでした。
第22回<東京の夏>音楽祭2006の大トリを飾る、
セネガルのスーパースター、ユッスー・ンドゥールの公演です。
ユッスーはおそらくアフリカのミュージシャンの中でも、
キング・サニー・アデやパパ・ウェンバ、サリフ・ケイタらと共に
もっとも欧米で人気のあるアーティストでしょう。
私のユッスー初体験はピーター・ガブリエル1986年のアルバム『SO』
に収録された "In Your Eyes" におけるゲスト・ヴォーカルで、
天かけるその歌声に衝撃を受けたことは今もよく覚えています。
ピーター・ガブリエルとはその後1989年に "Shaking The Tree"
という共作シングルも発表しており、これも名曲です。

初めて生で聴いたユッスーの歌声でしたが、いやあ、圧巻でした。
彼一流の、どこまでも青い空にむかって伸びてゆくような
高音域の節回しも、音程にいっさいの揺れなし。
我が敬愛するフレディ・マーキュリーやデヴィッド・ボウイも、
ライヴでこれほど完璧にはいかないでしょう。
ユッスーを支えるミュージシャンたちも強力無比で、4人もいる
パーカッション(ドラムス)が叩き出すグルーヴは圧巻でしたし、
バッキング・ヴォーカルの女性も楽勝で主役を張れる力量です。
ギターもベースも、欧米のロック系ギターとはまたひと味違う、
攻撃性よりは快楽指数の高いプレイで、これまたしびれます。
時々乱入する謎のダンサーがすさまじい身体能力で曲芸的な踊りを
披露し(しかも顔は常に笑っているから怖い)
お客様をわかせていました。お客様は<東京の夏>音楽祭の常連の
方も多いとみられ、最初はかなりおとなしかったのですが、
ユッスー一派の巧みなあおりに後半は観客総立ち、老若男女が
楽しそうに昭和女子大学人見記念講堂を揺らしていました。

「アフリカを悲しいイメージだけでとらえないでほしい!
こんなに豊かな文化があるんだ。トキオ!セネガル!」と
語りかけるユッスーに、拍手と歓声で応える聴衆。
ああ、コノノの水戸公演もこんな風な光景を出現させたいですねえ。
いかんいかん、ユッスーの話でこんなに長くなってしまいました。
このレポート、8月 6日に書いているのですが、
まだ興奮が冷めていませんね。
そうそう、今日はコンゴの音楽事情をお話しするのでした。

といってもコンゴの音楽をひとくくりに語ることなど
できるのでしょうか?はっきり言って無理です。
200を超えるといわれる民族が、みなそれぞれの音楽文化を持ち、
それが接触と融解を繰り返しながら
コンゴの音楽シーンをつくりあげているのですから。
民俗音楽系については、もう私が紹介するのはそのごく一端だと
お思いください。

たとえば、『イトゥリ族ピグミーの音楽』(ビクターVICG60334)
というアルバムがあります。世界でももっとも背丈の小さい民族の
音楽ですが、その洗練されていること。
いくつものパートが複雑に呼び交わし交錯する一種のポリフォニー
ですが、もう一発で持っていかれます(このアルバム、すごい苦労を
して森の中で録音しているのですが、それだけのことはある臨場感
です)。

あるいはコノノNo.1も用いているリケンベの音楽
『ブルースの源流〜シ人の歌とリケンベ』(VICG6033)。
解説者も指摘しているように、なるほど、これはアメリカの
ブルースの源流って感じですね!
リケンベをギターに持ち帰ると、ロバート・ジョンソンになる、
という印象でしょうか。
しかしリケンベの響きはミニマル・ミュージックみたいで、
めちゃくちゃ洗練されてます。
アメリカのブルースの方が泥臭く感じられるくらいです。
ピーター・ガブリエルの『III』(1980年)や『IV』(82年)、
あるいはトーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(80年)
あたりのアフロ色強烈なアルバムは、このリケンベ、あるいは
マリンバのサウンドを、シンセサイザーで再現しているところが
あるな、と思いました。

まあそんなわけで民俗音楽系はとことんディープなのですが、
ポピュラー・ミュージックの世界において、コンゴは実は
アフリカ最大の音楽大国なのです。
アフリカを席巻し、世界でも有名な一ジャンルとなった
コンゴのポピュラー・ミュージック、
その名はルンバ・コンゴリーズ(コンゴレ、コンゴロワーズの
呼称も)。これは、植民地時代にさかのぼる1930〜40年代、
コンゴの伝統音楽に、ラテン・アメリカ起源のルンバやチャチャチャ、
ボレロといったダンス音楽などさまざまな外国音楽の要素が導入され
て作り上げられたものだそうです。最初はギターやアコーディオンの
弾き語りのようなものだったそうですが、徐々にホーンや打楽器、
リケンベやエレクトリック・ギターが加わり、音楽はゴージャスかつ
華麗なものとなっていきました。

50年代半ばに活躍した巨匠フランコと彼のバンド「O.K.ジャズ」は
全アフリカにとどろく人気を博したそうです。
ここでご紹介するのは『コロニアル・ダンス・バンド 1950&1952』
(アオラ・コーポレーション BNSCD568)というアルバムで、
モザンビークやザンビア、タンザニア、ケニアといった諸国の音楽に
まじってコンゴのバンドが 2つ(オルケストル・オペラ、
オルケストル・ティナバ)収録されています。管楽器を中心にした
アレンジにスウィートな節回しのコーラスが乗っかり、
ラテン・タッチの優雅な音楽で(特に後者はギターも繊細)、
私たちのアフリカン・ミュージックのイメージは
ずいぶんくつがえります。しかし、「コロニアル」という名が示す
とおり、これはいわば植民地化で発達した、どちらかといえば
現実のつらさを忘れさせてくれるスウィートな音楽です。
その後、ザイコ・ランガ・ランガ、そして今も現役で1980年代以降
欧米でもムーヴメントを巻き起こしたパパ・ウェンバとヴィヴァ・
ラ・ムジカ、ウェンゲ・ムジカといったグループは、これらを批判
するかのようによりモダンでシャープなサウンドを追求しています。
歌詞もときに政治的で、音楽がコンゴの厳しい現実に立ち向かって
います。とはいえ、決して自虐的な暗さに落ち込むことはなく、
その音楽はいつも力強く、明るく響くのです。

ここではパパ・ウェンバのベスト・アルバム『ムワナ・モロカイ』
(オルターポップAFPCD−295)をご紹介しておきましょう。
テクノ系のサウンドも聴かれます。パパ・ウェンバは欧米でも有名で、
さきほどからたびたび登場するピーター・ガブリエル92年のライヴ
『シークレット・ワールド・ライヴ』(CDもDVDもあり)の最終曲
"In Your Eyes" にゲスト出演し、壮大な盛り上がりを演出して
います。
一方最近は往年のコンゴ音楽のサウンドを再生させようという
グループも登場しており、
ケケレ『キナヴァナ』(sambinha SAR-5000)などにその現れを聴く
ことができるでしょう。

というわけで駆け足でコンゴの音楽状況をご紹介してまいりましたが、
ハードな歴史を生き抜いてきたコンゴ人の原動力は音楽、と
結論づけたくなるその音楽大国ぶりには、感動しますね。

さて、我らのコノノNo.1の音楽は、コンゴの音楽シーンにおいて
どのような立ち位置にあるのでしょうか。
次号、いよいよ本丸に切り込みます!

水戸芸術館音楽部門主任学芸員 矢澤 孝樹

コノノ通信 4「コンゴの歴史について」(速報版)
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/2100/2139.html
コノノ通信 3「映画『ホテル・ルワンダ』について」(速報版)
http://www.arttowermito.or.jp/atm-info/2100/2134.html
コノノ通信 2「電気親指ピアノの話」(↓画像を付けました)
http://www.arttowermito.or.jp/2006/ongaku/likembej.html
コノノ通信 1「水戸市民会館」(↓画像を付けました)
http://www.arttowermito.or.jp/2006/ongaku/skaikanj.html
「コノノNo.1」公演情報
http://www.arttowermito.or.jp/2006/ongaku/konono1j.html
ファミリー・ワークショップ「親指ピアノを弾こう!」
http://www.arttowermito.or.jp/musicpdf/kononofws.pdf

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