これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date: Wed, 26 Dec 2007 21:21:19 +0900
From: tamamik@arttowermito.or.jp
Subject: [atm-info,02315] 2007 --> 2008
To: atm-info@arttowermito.or.jp
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▼水戸芸術館ATM速報2007年12月26日発 ---------------

松本 小四郎 (水戸芸術館演劇部門芸術監督)
「『十二人の怒れる男』と『12 LIARS --評決者たち--』について」

私は約五十年前に発表された『十二人の怒れる男』が、
いまだに色褪せない劇作の力に溢れているのに驚かされながら、
何度も読み直しビデオも観ました。
登場人物と彼らの言葉のやりとりは、決して偶然ではないと思います。
その理由の一つについてローズ自身こう書いています。

「『十二人の怒れる男』は、わたしの作品中、自分の個人的経験を
  僅かでもとり入れて書いたものとしては唯一の作品である。
  作品を書きはじめる一か月ばかり前、わたしはニューヨーク地方
  裁判所で、故殺事件の陪審員をつとめた。これはわたしのはじめて
  の陪審の経験であり、強烈な印象をわたしたちに残した。(略)
  第一日にわたしが待合室で出会った陪審員は、全員同じように、
  冷酷無残に扱われたという態度をとっていた。しかし、不思議な
  ことに、陪審員に選ばれるべく法廷に一歩入った瞬間、そして、
  わたしの手の中にその運命を握られている見知らぬ男と直面した
  そのときから、わたしの態度は一変した。おそろしいまでの法廷の
  静寂さ、無感情な、仮面のような裁判長の顔、キビキビと立ち動く
  廷吏たち、そして公判の最後にわたしと他の陪審員が下さなければ
  ならぬ決断が、いかに最終的決定的なものであるかについて、
  わたしは強烈な印象をうけたのである。
  わたしの人生でわたしが演ずるべき役柄に関して、あれ程の感銘を
  受けたことはなかったと思うが、そのために、わたしは突然、
  真剣そのものになってしまった。(略)この公判中に、わたしは
  陪審員室の中で何が起るかを知っているのは陪審員しかいないこと
  に気付いた。そして舞台を陪審員室の中だけに限定した芝居は
  面白いし、観客にも感動的な経験になるのではないかと考えた。」

長い引用になってしまいましたが、これを読んでいただければ、
『十二人の怒れる男』で展開される、事件そのものを陪審員室だけで
再現するアイデアがじつに卓越したものであり、何よりも作者自身の
実体験をもとに書き上げられたドキュメンタリーであったことが
おわかりいただけると思います。ついでにもう一つ特徴としてあげて
おかなければならない点があります。
作者はその点についてこう書いています。

「『十二人の怒れる男』を読むにあたって、読者が十二人の各人の
  イメージを即座に、しかも明確に形造ることはおそらく不可能に
  近いだろうとわたしは思っている。しかもその十二人はただ番号で
  表現されているだけなのである。この戯曲は観られる形において
  完成されるものとして構成されている・・・・・・」

説明するまでもないことですが、陪審員は互いに名前も年齢も職業も、
あるいは人間的性格というものも、つまり人がコミュニケーションを
行うための情報をもっていないのです。だから、彼が、あるいは他の
彼が何を考えているのか、他の陪審員をどう見ているのか、さらには
事件そのものについてどう判断を下しているのか、などは実際に
陪審員室でのやりとりを聞くまで、私たちにはまったくわからない
わけです。ですからリアルタイムに彼らの言動を観ていくなかで、
12人の男一人一人をイメージし、人間的な特徴を頭のなかで
形づくっていくほかにありません。こういう人物形象の方法も、
当時としては大変斬新なものとして、高い評価を受けたのではないで
しょうか。

さて、ストーリーについては多くを語る必要はないと思います。

真夏の法廷で、18才の少年が父親を刺殺した事件の裁判が行われた。
検察側の証人尋問が終わり、陪審員による評決に入るところから
始まります。陪審員室に入ると、「弁護士がベラベラしゃべっても
結果は同じさ」「今夜はナイターに行くんだ」「早いとこ始めようぜ」
「検事は見事だった」「すごい説得力だ」「息子が父親を殺すとは!」
「世も末だ」とてんでんに席に着く。
そして第一号陪審員が陪審員長となり、司会を始める。
「さて、まず討議してから投票しても良いし、  今、投票しても
いいが・・・」。すると陪審員の一人が「まず投票だ!」といい、
それに賛成する他の陪審員も「それがいい、早く帰れるかも知れん」
と賛成する。司会が「ただし、有罪に投票すると被告を電気椅子に
送ることになります」と確認すると、ほぼ全員「わかってる!」と
答える。「では、有罪の人は?」。12人にうち11人が有罪に投票する
が、ただ1人(ヘンリー・フォンダ)が無罪を主張する。ここから
男たちのプライドを賭けた、肉弾戦ともいえる議論が始まる。

さきほども言いましたが、なぜ作者は公判での議論を省いて、
それを聞いていた12人の陪審員の評決をめぐる場面だけを書いたか。
ハリソン・フォード主演の映画『推定無罪』を観るまでもなく、
今という時代でしたら、陪審員たちは検事と弁護士の複雑な駆け引き
とやりとりを傍聴席(私たち)とまったく同等な立場で聞き、
傍聴席の予想を覆すような評決はまず出さないでしょう。しかし
『十二人の怒れる男』は、事件の全容を知っているのは12人の陪審員
だけです。陪審員制度の欠陥とでもいうべきでしょうか、
あるいは未成熟といったほうがいいかも知れませんが、
客観的に事実を考察する意識が非常に希薄であったり、
露骨に人種差別や貧民蔑視を口にする陪審員がいました。
しかし最後に、彼ら自身で事件をめぐるさまざまな矛盾や誤解を
解き明かし、少年に無罪の評決が下されるところで終ります。

ところでこの作品の最大の謎は『怒れる男』の怒りが何に向けられて
いたかです。私が答えるよりも皆さんで考えていただいたほうがいい
と思います。

さて、今回上演します『12 LIARS --評決者たち--』について
ふれなければなりません。
LIARSは「嘘つき」という意味です。登場人物は男9人、女3人。
彼らは全員囚人です。囚人の矯正教育の一環として行われる、
今回で四度目になる模擬裁判の陪審員に選ばれた者たちです。
六日間の模擬裁判に立会い、評決を下すために密室に押し込まれます。
模擬裁判ですから当然、裁判官、検事、弁護士、証人も登場しますが、
彼らも同じ囚人なのです。ただ陪審員たちとの決定的な違いは、
彼らがテキスト(台本)をもっている点です。あつかわれる事件は
同じ事件ですが、ナイフなどの道具類や時間や場所の設定などが
毎回変わっています。そのなかで陪審員を演じさせられる囚人たちは
各人、「彼らが必要なのは評決の結果じゃない。これはトライアル、
模擬裁判ですからね。議論そのものの量の問題です」という司会の
言葉にうながされ、テキスト(台本)を考え出さなければならない。
おそらくそのへんに「嘘」という言葉を解き明かす鍵があると
思います。

もう一つ、これは上演される戯曲にエピソードとしてでてきますが、
『12 LIARS』の陪審員である12人の囚人たちは、おそらく全員、
仮釈申請をしているのではないかということです。
おそらくといったのは、戯曲の展開を追っていきますと、
どうも彼らを仮釈放させないために、12人のなかに
民間人が混じっているように思えるのです。何人?
いまはわかりませんと答えたほうがいいと思います。
ただ言えることは、彼らに「悔悟の情」や「更生の意欲」が認められ、
「再犯のおそれがない」「社会の感情が仮釈放を是認する」と
認められなければ、仮釈放は却下されるのです。そのために、
彼ら12人は、いつ終るともしれぬ議論を続けていかなければならない
わけです。

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水戸芸術館 ACM劇場が、2008年新春にスタートさせる
新企画シリーズ <NEW STANDARD SERIES> 。
古今東西の名作をモチーフに、
新たなスタンダード作品の創造を目指します。

シリーズ第一作、専属劇作家・演出家の長谷川裕久が書き下ろす
『12 LIARS --評決者たち-- 』に、どうぞご期待ください!
http://www.arttowermito.or.jp/2007/engeki/12liarsj.html

チケットはただ今のお時間はもちろん、休館中もインターネットで
ご予約いただけます。ぜひご利用ください。
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保守作業による休館のため、水戸芸術館は本日で平成19年を納め、
明日12月27日から1月3日まで連続休館させていただきます。
大変恐縮ですが、お問い合わせ等は1月4日からお願いいたします。

12月31日から1月1日にかけましては、恒例の「カウントダウン」
イベントがございます。
水戸芸術館広場に、暖かなご用意とともにぜひお集まりください。
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2007 → 2008 カウントダウン&ハッピーニューイヤー
・・アートタワーみとスターライトファンタジー・・・
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2007年12月31日(月)〜2008 1月 1日(火)
会場:水戸芸術館 広場

12月31日(月)
    17:00  イルミネーション点灯
    18:00 模擬店オープン
    19:00〜20:50  リハーサル
    21:00 開会宣言

  ステージイベント
    21:00〜21:25 カウントダウンライブI(LiLi)
    21:30〜21:55 水戸よさこい連合会(美都天翔舞)
    22:00〜22:30 カウントダウンライブII(せきずい)
    22:30〜23:00 柴草幹夫ライブ
    23:00〜23:30 カウントダウン抽選会
    23:30〜23:59 カウントダウンイベント
                 柴草幹夫グループ(フルート他)
    23:59〜 0:00 カウントダウン

1月1日(火)
     0:00〜 0:15 イルミネーション点灯
                 スターライト風船メール飛ばし
                 柴草幹男グループPart3
     0:15        閉会

*各種模擬店が出店する予定です。
(甘酒、けんちん汁、おしるこ、そば、うどん、コーヒー、
  駄菓子等)
*模擬店でお買い上げの方には豪華賞品の当たる抽選券が配布され
  ます。ただし数量限定ですので、お早めにどうぞ。
*都合により時間及び出演者が変更になる可能性があります。

主催:'07ATMSF(アートタワーみとスターライトファンタジー)
      実行委員会
共催:社団法人水戸市商店会連合会
      財団法人水戸市芸術振興財団
後援:水戸市、水戸市教育委員会、水戸商工会議所、水戸観光協会
      茨城新聞社、ふぁいぶたうんコミュニティ

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この1年、水戸芸術館への強力なご支援をありがとうございました。
新年はまた新たな気持ちで努力を重ねますので、引き続きのご注目・
ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください!

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