これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date:  Mon, 5 Jan 1998 22:26:35 +0900 (JST)
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▼ATM速報1998年1月5日発−−−−−−−−−−−−−−−

平成10年l月
ACM劇場新春公演
プレスリリース
拝啓
 新年明けましておめでとうございます。
 昨年中は、私ども水戸芸術館ACM劇場の公演活動に多大なご支援を
賜り、心より御礼申し上げます。
 さて、毎年1月に企画いたします新春公演は、昨年より内容を一新
してスタートいたしました。昨年は、「シアター&ワークショップ」
と題して、21世紀という新しい時代の演劇を担う四人の演劇人により
ます新作の競演と公開ワークショップをご覧いただきました。そこで
上演しました私どもの専属劇作家であり演出家である長谷川裕久の
『美貌の流星』が今年度の岸田國士戯曲賞の最終選考作品に選ばれま
した。
 「水戸発信の演劇とは何か」を、ACM劇場がオープンして8年間、
私どもはさまざまな演劇活動を繰り広げるなかで考え、実践してまい
りました。そのひとつに「現代日本戯曲大系」があります。昨年は、
音楽・美術・演劇の三部門の協同企画である「日本の芸術1960s」
に寺山修司フェスティヴァルを組み込みおよそ四ケ月という長い期間
にわたって開催し、多くの観客・関係者から高い評価を受けました。
 そこで、水戸芸術館ACM劇場の新春公演は、今年より長谷川裕久作
・演出による新作を毎年上演していくことにいたしました。すでにご
承知の通り、厳しい経済状況のなかで、現代劇に求められているもの
は、個々の劇作家、演出家の想像をこえるものになりつつあります。
それを現代劇を含めた「演劇の危機」と呼んでもいい状況ではないで
しょうか。いま、演劇は何をどう創造すべきか、多くの演劇人が熟思
しつつあります。私たち水戸芸術館ACM劇場では、等身大の人間のド
ラマを超えた創作劇の可能性と、演劇が歴史的に蓄積してきた想像力
と抽象力を回復するような作品をつくることが、その危機を打開する
道だと考えております。その第一弾が昨年上演いたしました『美貌の
流星』です。
 さて、今年は、劇団唐組から鳥山昌克、久保井研、伊原裕次の客演
を得て、劇団ACMと久保井研、伊原裕次の客演を得て、劇団ACMとの
合同公演の第二弾としまして、長谷川裕久作・演出による『花冠の大
陸』をお贈りいたします。『花冠の大陸』は次のような構成になりま
す。

【プロローグ】
 1946年、内務官僚でありGHQの調査官である若い男と一人の老
人が机を挟んで向かい合っている。そこは病院の一室であり、一人の
男が取り調べを受けている。
若い男は「マッカーサー総司令官に一つの書簡が届けられた」と語る。
その書簡の差出人は、かつて南極大陸を探検した白瀬中尉。病室にい
るその男は自分がその白瀬だと主張する。ベットの上で食事をとって
いた彼は、突然嘔吐し、その手から転げ落ちた缶詰をみて、「その缶
詰こそ、あの時の探検食だ」と叫ぶ。そして、老人は「ここに一冊の
探検記がある。著者は南極探検書記多田恵一。この探検記の面白いと
ころは、白瀬を批判し、中傷し、南極探検そのものを弾劾する告発文
であるところだ。どうでしょう、貴方が多田恵一となって、白瀬探検
隊の軌跡を辿ってみるのは」と若い男を挑発する。彼はその挑発にの
る。そして、密室でのデテクティブ(探偵作業)が始まる。
【第一幕】
 場所はオーストラリアのシドニー。白瀬は一旦南極に接近するが、
氷に阻まれ断念したのである。奇妙な事件、不穏な噂が流れる。それ
は白瀬の毒殺末遂事件と開南丸に官憲の密偵が乗船しているという噂
である。そして、白瀬は隊員たちに衝撃の報告をする――「現在帰国
中の多田恵一書記長を罷免する」。しかし、多田はシドニーヘ戻ると、
白瀬探検隊が日本国家と世界から裏切られたことを伝える。すでにロ
アルト・アムンゼンもまた、南極大陸へ向かっていたのである。

【第二幕】
 アムンゼンの南極大陸への参加は、白瀬にとってスコット大佐との
協定の破棄を意味した。白瀬は、南極大陸の極点を争うことがもはや
絶望的であることを承知で、南極へ向かうことを決意する。だが、シ
ドニー公安部は毒殺末遂事件の解明を理由に、開南丸の出港を阻止す
るという噂が伝わってくる。そして、白瀬を毒殺しようとしたのが南
極探検の後援会であったことが明らかになる。それを知りつつ、なぜ
白瀬は南極大陸の極点へ向かったのか。干島での体験の恨みと償いの
念からか。
白瀬は多田にこう語る――「かつて探検の歴史を支えてきたものは、
極限で見た憎悪の強さと裏切りの繰り返しであった。最果ての出来事
を、物語として憎悪のなかに書き残すのはお前だ」。
 若い男は、白瀬毒殺未遂事件の顛末をそこで確信する。しかし、さ
らに大きな疑問が生まれる。それほどまでにして書き上げた物語に、
まだ謎が残されている。南極大陸上陸の過程で何があったのか。いや、
それだけではない。まだ、語られていない事実がある。彼は老人にい
う――「貴方こそ、白瀬中尉その人ではないのか」と。その言葉がき
っかけに新たな事実が明らかになる。GHQによる「白瀬サルベージ
計画」は、イギリスのチャーチルによる「スコットサルベージ計画」
を模倣して始まったのである。その目的とは何か。新大陸の領土権を
主張する根拠である。
アムンゼンは世界を欺き北極行きを南極行きに大転換した。日本隊も、
それによって上陸地点を変更せざるを得なくなった。しかし、その事
実を知らぬイギリス隊は、最後まで日本隊の救援を信じていたのでは
なかったのか。
 白瀬は何かにとり憑かれ、また何かを振り払うように南極大陸を突
進する。そして、行き着いた最果ての地を「大和雪原」と命名し、そ
の場で日本隊を解散する。
それは、「日本」を最果ての雪原に埋葬することを意味していた。そ
れこそが、日本南極大陸探検隊書記多田恵一のみが知り得た<物語>
であったのである。
【エピローグ】
 1956年。南極越冬隊を乗せた砕氷船「宗谷」出港のニュースが日
本中を伝わる。
新聞の片隅に「白瀬隊の生き残り多田恵一翁、壮挙を送る」の記事が
載っている。
 多田恵一は大正、昭和の二時代にわたって「南極探検会」の理事を
勤めた。昭和16年に年に、「南極探検会」は南極行きを実行しようと
した。そして、プロローグの1946年の米軍野戦病院に収監された人
間たちこそ、廃人同様に南極大陸から連れ返された捕虜たちだった。
そして、すべての関係者が逝ったいま、若い男は、幻の多田恵一に向
かって問う――「なぜこの私が、ブリザードのなかを、いまでも末踏
の極点を目指すあの男たちのあの幻影を生きなければならないのか」
と。


 いま現代劇に求められているのは「日本とは何か」でも「日本人と
は何者か」でもありません。日本の近代・現代史のなかに私たちが何
を見続けてきたか、何を見続けなければならないかを言葉と身体と空
間造形によって語ることではないでしょうか。現代劇が新たな時代に
応える創作劇をつくるには、日本という地域を超えた〈超域的〉な視
点にたって物語という言葉の構築物をつくるほかにないと思います。
 今回の『花冠の大陸』は若き劇作家による〈超域的〉な物語への意
欲的な挑戦です。つきましては、多くの方々にお知らせいただければ
幸基です。
敬具
水戸芸術館ACM劇場
支配人・芸術監督 松本小四郎


1998 NEW YEAR PERFORMANCE
ACM劇場新春公演
●公演名   『花冠の大陸』(かかんのたいりく)
●作・演出  長谷川裕久
●出演    塩谷亮、佐藤信郎、子安真、名取哲、
       鳥山昌克(劇団唐組)、   
       久保井研(劇団唐組)、伊原裕次(劇団唐組)
●公演日   1月23日(金)19時開演
         24日(土)19時開演
         25日(日)16時開演
         30日(金)19時開演
         31日(土)19時開演
       2月 1日(日)16時開演
●会場    水戸芸術館ACM劇場
●チケット  一般3,000円/中高生1,500円/
       団体(10名以上)2,700円
●チケット発売日 1997年11月30日(日)より発売中
●チケット取り扱い
  水戸芸術館エントランスホール内チケットカウンター
  水戸芸術館チケット予約センター 029-225-3555
  チケットぴあ   03-5237-9988
  チケットセゾン  03-3250-9999
  CNプレイガイド 03-5802-9999

●お問い合わせ
水戸芸術館ACM劇場 〒310 水戸市五軒町1-6-8    
TEL  029-227-8123

−−−次回配信をお楽しみに! −−−−−−−−−−−−−−−−−−−