これまでにお送りした水戸芸術館ATM速報

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Date:  Tue, 18 Jan 2000 19:26:08 +0900
From:  tamamik@arttowermito.or.jp
Subject:  [atm-info,00871] Mokutosha plays "Gikyoku Boken Shosetsu"
To:  atm-info@arttowermito.or.jp
Message-Id:  <4925686A.00385FCC.00@david.arttowermito.or.jp>
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▼ATM速報2000年1月18日発--------------------------------

「女は行動した男の世界を収集する。」

女性読者の皆様、いかがでしょうか。
いつでもご意見お待ち申し上げております。
mailto:webstaff@arttowermito.or.jp
本日公演期間に入りました木冬社特別公演『戯曲冒険小説』、松本小四郎
演劇部門芸術監督による作品解説をお届けいたします。

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木冬社を主宰する清水邦夫は、70年代初め演出家蜷川幸雄とともに
「現代人劇場」を結成し、学園闘争の喧燥の余韻につつまれた新宿の中心街
にあった新宿ア−ト・シアタ−で、『ぼくらが非情の大河をくだる時』、
『泣かないのか?泣かないのか?一九七三年のために?』(「櫻社」にて
上演)等、いまや伝説と化した作品を上演し、演劇界に衝撃的なデビュ−
を飾った日本の現代劇を代表する劇作家の一人です。
時代が大きく変わった80年代、清水邦夫の作品は蜷川幸雄の演出によって、
日生劇場、渋谷パルコ劇場、銀座セゾン劇場へと劇空間を変え、現代人の
ロマンを紡ぐ作品として多くの観客を魅了してきました。
そして90年代、清水邦夫は東京の観客だけでなく、全国各地の観客にも
現代人の内面を劇的な、詩情溢れるタッチで描きつづける劇詩人として
愛され、各地で盛んに上演されるようになりました。
清水邦夫の演劇的な特徴を一言でいえば、過去と現在を劇的に造形する
その時間の遠近法と、映像的で詩的な響きを奏でるその台詞にあります。
彼の描く人間は劇的な抒情性を生きています。それは、私たち日本人が
近代の歴史のなかで意識的に、あるいは無意識的に培ってきた<抒情詩
的>な風景のなかに、彼の描く人間がつねに登場してくるからだとも
いえます。
今回上演します『戯曲冒険小説』は、1979年文学座アトリエ公演のために
書き下ろし、同年の芸術選奨新人賞を受賞した作品です。
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舞台は日本海沿いのある町。
市立図書館に勤める主人公は、七歳年上の妻と暮らしている。
土蔵のなかで暮らす彼女の望みは、前夫の "偉大なる冒険家" の伝記を
完成させることであった。彼女は伝記を完成させるには「ハイヒ−ルを
盗めなければ感じをつかめない」と男に迫る。
前夫は冒険家であったが、実はハイヒ−ルを盗む "冒険" もしていたので
ある。何度も盗みを試みては失敗しつづける男は、ある日、ハイヒ−ルの
片方を手に入れる。そこへ盗まれた靴屋の主人と冒険家の弟らしき外套の
男が登場する。男たちにとって冒険とはなにか。
そして、女にとって冒険家とは?
その答えは、彼女の待つ土蔵へ彼らが入っていく時に明らかになる……。
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男は誰もが一度は冒険家を夢見ます。それは行動への憧れであり、自分の
愛する女の期待に応えるためでもあります。
しかし、女は行動した男の世界を収集する。そして収集した男の断片から
物語をつくりだしていく。
『戯曲冒険小説』は、日常に亀裂のごとく入り込んできた "冒険家"
という物語をめぐる男たちと女の幻想的で劇的なロマンを描いています。

清水邦夫はエッセイ集『火のように、水のように』(レクラム社)のなか
で、映画シナリオのため取材に訪れたタンザニアで、現地の人に日本に
ついてどんどん質問を浴びせられ、途方にくれたと述べた後、冒険に
ついて次のようなことを書いています。

..その時貴重なヒントをえた。冒険とは未知なるものに対して、どんどん
質問を浴びせていくような行為であり時間であると思っていたが、実は
自分の存在やその周辺に対して逆にどんどん質問を浴びせられることなの
だ、と思うようになった。いうなれば、自分を洗う、自分を問いなおす
時間...。
今度の芸術選奨文部大臣新人賞受賞の対象になった『戯曲冒険小説』は、
このような体験が裏打ちになって創り出されたものだ。この作品を書くに
あたって、体験のみならずいろんな文献にもあたったが、ポ−ル・ツヴァ
イク『冒険の文学』も大いに参考になった。たとえばこんな文章があり、
セリフにも使わせてもらった。
<ある意味で、冒険者の生き方は責任ある男性のすべての行動基準を
やぶる。それは道徳性というものに支配されず、生産的な仕事の論理を
欠いている。>
さらにこうも書いている。
<こういう冒険者たちの前後のつながりのない受身の気質というものは、
実のところ妙に女性的である。>
いずれにせよあまりカッコいいものではない。

ACM百人劇場シリ−ズ・4
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木冬社特別公演『戯曲冒険小説』
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(作・清水邦夫/演出・清水邦夫、松本典子)
http://www.arttowermito.or.jp/play/hyas99j.html#4
2000年1月18日(火)〜23日(日)、25日(火)〜30日(日)
火〜土:午後 7時開演、日:午後4時開演
一般3,000円、団体(10名様以上)2,700円、学生1,500円 (全席自由)
* 団体、学生券は水戸芸術館のみの取り扱いです。
TEL: 029-225-3555
mailto:ticket@arttowermito.or.jp

http://www.arttowermito.or.jp/atm-j.html 次回配信をお楽しみに!---