水戸室内管弦楽団(Mito Chamber Orchestra)

水戸室内管弦楽団について

mco
撮影:大窪道治
水戸室内管弦楽団(以下MCO)は水戸芸術館の専属楽団として、1990年の開館と同時に、初代館長・吉田秀和の提唱により誕生しました。日本を代表する音楽家である小澤征爾が、総監督、指揮者としてその運営にあたっており、メンバーは、ソリストとして、またオーケストラの首席奏者として、世界的な活躍を続ける日本人音楽家および外国人音楽家たちです。MCOは、水戸芸術館コンサートホールATMで定期演奏会を行っています。定期演奏会は小澤征爾指揮による演奏会、客演指揮者による演奏会、ソリストを迎えての演奏会、指揮者を置かずメンバーのみのアンサンブルによる演奏会の4つの柱を基本に構成され、音楽家たちは、演奏会の度に、世界各地から水戸芸術館に集まり、集中的にリハーサルを行います。2013年7月現在、定期演奏会は87回を数えます。

MCOの特性は、いわば「2つの顔」を自由に使い分けられることにあります。1つは「指揮者を置かないアンサンブル」としての顔。それぞれ高度の演奏技術と音楽性を身につけた音楽家たちによる入念なリハーサルの積み重ねによって、深い相互理解に満ちたアンサンブルが可能となり、結果として、室内楽的な細やかさとオーケストラのスケール感を共に備えた響きが創りだされるのです。そしてそこで培われた演奏能力は、もうひとつの顔である「指揮者に率いられたアンサンブル」となった場合にも十分に発揮されます。様々な個性の指揮者に出会ったときでも、MCOはメンバーの間にいわば共通の音楽言語が浸透しているため、その指揮者の音楽性に即座に適応しながら、自分たちの音楽を奏でることができるのです。

この2つの特性を生かして、MCOは、数多くの注目すべき演奏会を行っており、「指揮者を置かないアンサンブル」としては数々のコンセプチュアルなプログラムを実施してきました。また小澤征爾はもちろんのこと、シモン・ゴールドベルク、ルドルフ・バルシャイ、トレヴァー・ピノック、ジャン=フランソワ・パイヤール、トン・コープマン、準・メルクル、ヘルムート・ヴィンシャーマン、若杉 弘、広上淳一、ハインツ・ホリガー、大野和士といった指揮者、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、アンドラーシュ・シフ、ブルーノ=レオナルド・ゲルバー、園田高弘、ドリス・ゾッフェル、カール・ライスター、ナタリー・シュトゥッツマン、ライナー・クスマウル、アンドレアス・シュタイアーといったソリストと共演し、好評を博しています。また、日本人作曲家への委嘱も積極的に行っており、 一柳 慧〈汽水域〉、 林 光〈悲歌〉(95年度尾高賞受賞)、平 義久〈彩雲〉 などの作品が初演されました。 また、ソニー・クラシカル及びフィリップスからCD9枚、NHKエンタープライズからブルーレイ/DVDが2枚発売されており、いずれも高い評価を受けています。

1996年からMCOは活動の舞台を水戸以外に広げ、東京・サントリーホールや大阪・フェスティバルホールなど日本各地で演奏会を行っています。1998年6月には「ウィーン芸術週間」「フィレンツェ5月音楽祭」「ルートヴィヒスブルク城音楽祭」等から招待を受け、ハンブルク、チューリヒ、ウィーン、ルートヴィヒスブルク、フィレンツェの5都市をめぐる初のヨーロッパ公演(指揮:小澤征爾)を行い、ヨーロッパの聴衆から圧倒的な賞賛を得ました。2001年3月には、第2回ヨーロッパ公演(指揮:小澤征爾)を実施し、フィレンツェ、ミラノ、ウィーン、パリ、ミュンヘンの各地から招聘を受け公演を行い、世界有数の室内管弦楽団との評価を確立しました。2008年6月の第3回ヨーロッパ公演は、小澤征爾音楽顧問が急病のため、指揮者なしで実行。ミュンヘン、フィレンツェ、マドリードの3都市から招聘を受け公演を行い、「小澤なしでトップに」などとその実力を絶賛されました。

*水戸室内管弦楽団は、株式会社アダストリアホールディングス、(公財)げんでん ふれあい茨城財団、
株式会社吉田石油、水戸京成ホテルの協賛、および全日本空輸株式会社の協力を得ています。


吉田秀和初代館長「夢のような望みから生まれた事態」

yoshida水戸芸術館は水戸市制100周年を記念するための施設として生まれました。水戸というところは、18世紀に水戸学をおこし、 明治22年(1889年)に日本で1番早く市制をとったまちです。そのまちがそれから100年を経て、こんどは音楽、演劇、美術のための総合的な施設をつくり、創意に満ちた芸術活動を通じて、水戸市民の精神面での充実に役立ちたいという考えで出発しました。(これは元市長佐川一信さんのすばらしいアイデアでした。)

その芸術館の出発に当たって運営を任された私は、100年といえば、日本が西洋の音楽の構造と精神とをとりいれ消化しながら、従来の日本音楽の基盤の上に、新しい音楽を創り出して、世界に向かって発言しようとして、さまざまな試行錯誤を重ねながらも、渾身の努力をしてきた期間に当たるわけだから、水戸芸術館の仕事としては、その経過を集約的で具体的な形で示すものとして、室内管弦楽団をつくったらどうかと考えたのでした。

この100年の間に、日本からは、世界各地に出かけていって、あるいは独奏家として、あるいは室内合奏団や交響楽団のメンバーとして、あるいは内外の音楽大学その他の教育施設の教師、研究員として、めざましい活躍をしている音楽家たちがたくさん出てきています。その人たちの中から選りすぐって、室内管弦楽団をつくったら、いったいどんな音楽が響くことになるのか?

これは、私としては、半分本気、半分は夢のようなものでしかない着想でした。

それをある日、小澤征爾さんに話したところ、彼は即座に理解してくれただけでなく、乗り気になって、全身的積極的協力を惜しまないといってくれました。そうして、いままでに独奏だけでなく合奏の経験もつんだ、今脂ののりざかりの実力者を、一人一人慎重に吟味しながらメンバーに選んでくれました。

楽団の運営は、小澤さんを音楽顧問とする一方、メンバーの自発性と合意を尊重しながら進めるという方針で行われる。年間で春と秋とで4回(それぞれ2日)、つまり4プログラム8公演の定期演奏会を開くことを基準とする。その中で、現在までのところでは小澤さんの指揮の演奏会、外部から招いた指揮者によるもの、ソリストの出演する演奏会、メンバーだけによるもので独奏者が必要なときはメンバーの中から出すのが原則の演奏会と、全部で4種類の公演を行ってきました。春と秋のそれぞれ2演目4日の定期演奏会のたびに、出演者は水戸に一週間滞在してリハーサルに専心するという状況が、芸術館創立以来今日まで続けられています。

演奏会の会場は水戸芸術館のコンサートホールATMです。これは水戸芸術館の活動の三本の柱、現代美術センター、ACM劇場とならんで、磯崎新さんの斬新卓抜な設計に基づいて建てられたもので、室内管弦楽から室内楽一般の演奏会場として打ってつけの空間となっていて、演奏者も聴衆も、ここに集って、幸福な一刻を過ごすことができるようになっています。私は、このホールで室内管弦楽団をはじめとする多種多様な音楽を味わうたびに、この施設の関係者というだけでなく、芸術を愛し音楽を愛するものとしての幸福をしみじみ思い、また、はしなくも水戸というまちにゆかりを持った人間の一人としての運命の不思議な導きに思いをめぐらすことがしばしばあります。

水戸室内管弦楽団の評判を聞いた人たちから、「どうして東京や何かでも演奏を聴けるようにしないのか?」と聞かれることがよくありました。そのたびに私は「当分は水戸でしか聴けない団体です。聴きたかったら、どうぞ水戸まで来て下さい。水戸芸術館は、その建物を見ただけでも感心するような出来のいい建造物になっていますし、水戸室内管弦楽団の演奏の醍醐味は、その芸術館の中のコンサートホールで聴いてこそ100%味わえるのですから。」と返事してまいりました。

そんなわけで、水戸室内管弦楽団は発足以来、水戸芸術館のコンサートホールATMでのみ演奏してきたのですが、94年にマーラーとシューベルトの曲による最初のCDが発売されました。これが幸い予想以上の好評に迎えられたためか、引き続いて96年5月には小澤征爾指揮による、ビゼーの交響曲第1番、ラヴェル作曲の『マ・メール・ロワ』を入れたCDが出、また10月にはルドルフ・バルシャイがショスタコーヴィチの弦楽四重奏を室内楽に編曲したもの3曲をバルシャイ自身の指揮によって録音したものーーー以上の3枚はどれも水戸室内管弦楽団の定期演奏会での実演をもとにしたライヴ・レコーディングです。ーーーなどが次々と発売されるようになるという状況になりました。それと平行して、外部からの出演の要請も、これまで以上に強くなった結果、1996年の春には大阪のフェスティバルホールで、また秋には東京のサントリーホールに出演するというところまで、活動の範囲が拡がってきました。

これまで理想的なアクースティックにめぐまれ、それにあわせてもっともよい響きを得るよう努めてきた演奏家たち。また、その響きに育まれた耳をもって精妙な音楽をきくことになれてきた聴衆。それをいったん離れて、違った条件の下で演奏をすることになった水戸室内管弦楽団が、これまでと違った習慣を持つ聴衆と対面して、どういうことになるのでしょうか。

それにしても、はじめに書いたように、これは私の半分は本気、半分は夢のような望みから生まれた事態です。現在までの水戸室内管弦楽団の演奏の実体についても、私としては、当初予想したとおりの高い水準から出発できたという喜びとともに、聴いている間、「いい演奏だ」「おもしろい演奏だ」「正確緻密なアンサンブルですごく迫力がある」 というだけでなく、その上なお、聴いた後になっても、「柔らかな響きに包まれた夢のような気持ち」とでもいったものが、いつまでも残るような演奏になったらどんなにいいだろうと夢想しているのです。

1996年10月


小澤征爾総監督「音楽をする、という精神をかみしめて」

ozawaある日、吉田秀和先生の鎌倉の御自宅に呼ばれました。そこで吉田先生が、先生のお考えで出来る新しいホールに直結した室内管弦楽団を作るという事をおっしゃられ、私もそれは素晴らしいアイディアだと思い、それに協力し、お手伝いを始めました。たまたま、その頃はサイトウ・キネン・オーケストラが毎年ヨーロッパ旅行をしているときで、このオーケストラのメンバーの中から来ていただくのが一番いいと思いましたので、そのように申し上げました。そうしましたら、実行力のある小口さんが、すぐヨーロッパまでいらっしゃって、じかに説明をして下さいましたので、とんとん拍子にこの室内管弦楽団ができました。

ほぼ理想に近い練習量、それからメンバーの今まで蓄えてきました音楽の経験など、あるいは水戸の方々の熱意ある受け入れ態勢等が、お互い良い作用をして、このような素晴らしい音楽家の集まりが出来ました。指揮者がなくてもアンサンブルが出来るオーケストラですが、たまには指揮者がいる曲目も演奏しようという事もあるので、指揮をしています。指揮をする度に、私も皆と、音楽をする、という精神をもう一度新しくかみしめるという願ってもない時を一緒に持っています。これからも、これが日本のアンサンブルの伝統になるようにと願っております。


水戸室内管弦楽団組織図

総監督

小澤征爾

創立名誉総監督

吉田秀和

名誉顧問

小口達夫

楽団長

堀 伝

楽団員代表

猶井正幸

パーソネルマネージャー

志賀佳子
ヴァイオリン
安芸晶子

川崎洋介

久保田巧

島田真千子
田中直子

豊嶋泰嗣

中村静香

沼田園子

渡辺實和子

ヴィオラ

江戸純子

モーリン・ガラガー
川崎雅夫

川本嘉子
店村眞積

チェロ

上村昇
原田禎夫
堀了介

松波恵子

宮田大

コントラバス

池松宏
フルート
●※ 工藤重典

オーボエ

フィリップ・トーンドゥル

ファゴット

ダーグ・イェンセン

ホルン

猶井正幸

ラデク・バボラーク

ティンパニ

ローランド・アルトマン

ステージマネージャー

佐藤昌樹

●運営委員 ※曲目検討委員

協賛:NEC、株式会社アダストリアホールディングス、(公財)げんでん ふれあい茨城財団、株式会社 吉田石油、 水戸京成ホテル
協力:全日本空輸株式会社
後援:茨城新聞社、水戸商工会議所